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正月とソヴェト勤労婦人
しょうがつとソヴェトきんろうふじん
作品ID2646
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第九巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日
初出「戦旗」1931(昭和6)年1月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2002-11-10 / 2014-09-17
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ――ヤア、こんちは。
 ――こんちは! どうした、久しぶりだね。
 ――ウン。一時間ばかり暇かい?
 ――何用?
 ――今日は正月、ソヴェト同盟の勤労婦人たちがどんなに暮すか、知ってるだろうからききたいと思ってやって来たんだ。いつだったか支那のソヴェトの正月について面白い話をきいたこともあるから……。
 ――成程。……だがソヴェト同盟じゃ正月って云っても、大したことないよ。二年ばかり前、モスクワで初めての大晦日と正月を迎えた時、どんなにやるのかと思って楽しみにした。ところが勿論日本みたいに除夜の鐘が鳴るわけじゃなし、門松立てるわけじゃなし、元旦に下宿の神さんが「おめでとう」と一言云ったぎりで普通のパンと茶を食ったよ。ヨーロッパ諸国じゃ、日本でもブルジョアが自分達の子供に玩具を買ってやるついでに貧児へ所謂慈善をほどこすクリスマスってやつ、キリスト降誕祭、あれを十二月二十五日にうんと盛にやって、その勢で大晦日正月は越しちまうんだ。
 ――だって、お前、ソヴェト同盟じゃ、あんなにプロレタリアートの階級意識を眠らす毒薬として宗教撲滅運動やってるじゃないか、見たよ、ソヴェトで出してる面白い絵入りの反宗教雑誌を。
 ――確にそうさ。ソヴェト同盟のその運動は革命当時から着手されていた。ところが一九二八年の復活祭、降誕祭の時分はまだそういう祭りを相当賑やかにやってたんだ。……ところでこれを見たか?
 ――はじめてだ、何だい、この赤、緑、黄色の点ポツポツは。
 ――愉快だぜ、ソヴェト同盟は一九二九年の秋から暦をかえちゃったんだ。一九二八年――二九年の経済年度からソヴェトでは生産拡張の五ヵ年計画にとりかかった。
 ――そりゃもう知らない者ないよ。
 ――この五ヵ年計画って仕事は、ソヴェト同盟がヨーロッパ資本主義国の生産に追いつき追い抜こうっていう、大した計画だ。アメリカやドイツの学者は、そんな計画が五十年間に実行され得たとしても驚くべきものだ。それを五年でやるなんて? またボルシェヴィキの気違いがはじまったって嗤ったもんだ。ソヴェトのプロレタリアートだってやさしい仕事にとりかかっちゃいないことをよく知っている。国家計画部が先に立って、先ず一年三百六十五日を一番生産のために有効に使うにはどうしたらいいかということを考えた。一年には五十二日日曜日がある、十三日いろんな宗教的な祭日がある。祭日の前の早じまいまであって、これまでは一年に七十三日から七十九日、工場と役所で仕事が止った。こんな不経済をやめて、交代に五日目ごとに一日の休日をとって本当にプロレタリアートの、記念日だけ休んで働くことにした。
 ――わかった。それで例えばこの赤ボッチが、また五日目についてるわけだな。間四日が働く日か。成程順ぐり緑や黄色がやっぱり五日目ごとにある。
 ――ここを見ろ。
 ――五月一日、二日。ははあ…

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