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雪魔
せつま
作品ID2685
著者海野 十三 / 丘 丘十郎
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第12巻 超人間X号」 三一書房
1990(平成2)年8月15日
初出「東北少国民」河北新報社、1946(昭和21)年3月~9月号
入力者tatsuki
校正者原田頌子
公開 / 更新2001-11-12 / 2014-09-17
長さの目安約 28 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 東京の学校が休みになったので、彦太少年は三月ぶりに木谷村へ帰って来た。村はすっかり雪の中にうずまっていた。この冬は雪がたいへん多くて、もう四回も雪下ろしをしたそうである。駅をおりると、靴をかんじきにはきかえて村まで歩いたが、電柱が雪の中からほんのわずかに黒い頭を出しているばかりで、屋根の見える家は一軒もなかった。
「この冬は、これからまだ三度や四度は、雪下ろしをせねばなるまいよ」
 と、迎えに来てくれた父親はそういって、またちらちらと粉雪を落しはじめた灰色の空を恨めしげに見上げた。
「五助ちゃんは何している? ねえ、お父さん」
 彦太は、仲よしの五助のことを尋ねた。
「ああ五助ちゃんか。五助ちゃんは元気らしいが、此頃ちっとも家へ遊びに来ないよ」
「ふうん。僕が居ないからだろう」
「それもあるだろうがな、しかし噂に聞けば、五助ちゃんたちは三日にあげず山登りに忙しいそうだ」
「山登りって、どの山へ登るの。こんなに雪が降っているのに……」
「さあ、それはお父さんも知らないがね。とにかくあの家の者は変っているよ。今につまらん目にでもあわなきゃいいが……」
「つまらん目って、何のこと」
 彦太は振返って後から来る父親の顔を見上げた。しかし父親は、ちょっと呻っただけで、それにはこたえなかった。
 その翌朝、彦太はもうじっとしていられなくて、先のとがった雪帽を肩のところまで被り、かんじきの紐をしめると、家をとびだした。雁木道がつきると、雪穴をのぼって、往来へ出た。風を交えた粉雪が横から彦大の身体を包んでしまった。五助の家まで、まだ五丁ほどあった。
 五助は家にいた。そしておどりあがって彦太を迎えた。
 火炉のむしろに腰をかけて、仲よしの二人は久しぶりに向きあった。東京から買って来たお土産の分度器と巻尺が五助をたいへんよろこばせた。
「五助ちゃんは三日にあげず山へ行くってね。どの山へ行くんだい」
 彦太は、聞きたいと思っていたことを、すぐに尋ねた。
「うん」
 五助は簡単な返事をしただけで、しばらく口をつぐんでいたが、やがて、
「誰にそんなことを聞いたの」
 と、ちょっとかたい目付で逆に尋ねた。
 そこで彦太は、「それはお父さんが村の誰かから聞いたことさ」といった。すると五助はかるくため息をついて、
「やっぱりもう知れわたっているんだな。だから僕は、こんなことをかくしておいても駄目だと、はじめにいったんだけれどね」
「五助ちゃん。何か悪いことをやっているのかい」
 彦太は、心配になるものだから、遠慮なく聞いた。すると五助は目を丸くして、首を左右に振った。
「彦くんのことだから、何もかくさないで話をするけれどね、実は一造兄さんが久しく山の中にこもっているんだ」
「へえ、そうかい」
「一造兄さんは、雪の中に大きな穴を掘ってその中にこもっているんだ。そして休みなしにカンソクをし…

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