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『地上に待つもの』に寄せて
『ちじょうにまつもの』によせて
作品ID2860
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年12月20日
初出「地上に待つもの」ナウカ社、1934(昭和9)年12月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-02-11 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 此度山田さんの自伝的小説『地上に待つもの』が出版されるに当って、何人かの友人らに混って短い感想を書く因縁に立ち到ったことを私は一種の感動をもって考えるのである。
 山田さんは、『種蒔く人』時代から日本のプロレタリア文学運動に参加して、本年二月ナルプ解散前後の多難な時をも経、略十年間、波瀾に富んだ闘争の道を歩いて来た。
 私が山田さんを知ったのは一九三〇年の暮旧日本プロレタリア作家同盟の活動に参加するようになってからのことである。僅か三四年の間ではあったがプロレタリア文学運動にとって意味深い様々の経験を共にした。しかし私は今日見る山田さんがその背後にどのような経歴を負うているかというようなことについては極めて知るところが少なかった。当時の事情では、そのような思い出話を、ゆっくりきくにふさわしいような機会もなく、過ぎていたのであった。
『地上に待つもの』は、単に山田さんの意義ある過去の道どりを私達の前に示すばかりでなく、日露戦争後、急速に日本に資本主義が発展しはじめた時代に少青年期を迎えた勤労階級の或る種の若者たちは、どのように階級的上昇をしようと焦ったか。而もその焦慮はみたされなかった若者たちが、ヨーロッパ大戦後急激に高まった階級闘争の波にどんな勢でまきこまれて行ったか。其らの経緯をも語っている点で、深い社会的興味をよび起すものなのである。
 又、この一篇の自伝的小説をよむものは、日本の解放運動においては、その初めから雑階級にまで急進思想がひろがっていたこと、及び、プロレタリア文学運動の先進者が勤労階級出身であるとしても一面にどのような歴史性をもって立ち現れているのであるかという現実の複雑な内容をも、はっきりと、作品の行文の間に読みとることが出来るのである。
 この一本を注意ぶかく愛読するであろう諸氏に、私は切望する。諸氏の旺盛な生活力によってこの作品からあますところなく教訓を摂取すると共に、才能の自由な活動を奪われ、著者は今、繩をないつつ坐らせられているということを、記憶されるように、と。――
〔一九三四年十二月〕



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