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獄中生活
ごくちゅうせいかつ
作品ID2948
著者堺 利彦
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学大系(序)」 三一書房
1955(昭和30)年3月31日
初出「楽天囚人」1911(明治44)年3月
入力者Nana ohbe
校正者林幸雄
公開 / 更新2001-12-27 / 2014-09-17
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 監獄は今が入り時

 寒川鼠骨君には「新囚人」の著がある。田岡嶺雲君には「下獄記」の著がある。文筆の人が監獄に入れば、必ずやおみやげとして一篇の文章を書く例である。予もまた何か書かずにいられぬ。
 監獄は今が入り時という四月の二十一日午後一時、予は諸同人に送られて東京控訴院検事局に出頭した。一人の書記は予を導いてかの大建築の最下層に至った。薄暗い細い廊下の入口で見送りの諸君に別れ、予はひとり奥の一間に入れられた。この奥の一間には鉄柵の扉がついていて、中には両便のために小桶が二つおいてあるなど、すでに多少の獄味を示している。あとで聞けばこれが仮監というのであった。ここに待たされること一二時間の後、予は泥棒氏、[#「泥棒氏、」は底本では「泥棒氏」]詐欺氏、賭博氏、放火氏などとともに、目かくし窓の狭くるしい馬車に乗せられた。乗せられたというよりは、むしろ豚のごとくに詰込まれた。手錠をはめられなんだだけがせめてものことであった。
 ほどなく馬車は警視庁の門に入った。「お帰り!」「旦那のお帰り!」などと呼ぶ奴がある。「今に奥様が迎えに出るよ」などとサモ気楽げな奴もある。警視庁でまた二時間ばかり待たされて、夕飯の弁当を自費で食った。ここでは巡査達も打解けて「なぜ別に署名人をこしらえておかなかったのです」というのもあれば「そんなことをしないところが社会党じゃないか」というものもある。そんなことから暫くそこに社会主義の研究が開かれて盛に質問応答をやったのは愉快であった。

二 東京監獄

 それからまた同じ馬車に乗せられて(今度は巡査氏の厚意によってややらくな席に乗せられた)東京監獄に着いたのはちょうど夕暮で、それから種々薄気味の悪き身体検査、所持品検査等のあった後、夜具と膳椀とを渡されてある監房に入れられた。
 監房は四畳半の一室で、チャンと畳が敷いてある。高い天井には電灯がともされている。室の一隅にはあだかも炉を切ったごとき便所がある。他の一隅には小さな三角形の板張りがあって、土瓶、小桶などが置いてある。こりゃなかなかしゃれたものだと予は思うた。その夜はそのままフロックコートの丸寝をやった。
 二十一日の朝、糒のような挽割飯を二口三口食うたばかりでまた取調所に引出され、午前十時頃でもあったろうか、十五六人のものどもと一しょに二台の馬車に乗せられて、今度は巣鴨監獄へと送られた。
 ここでチョット監獄署の種類別を説明しておかねばならぬ。まず東京監獄が未決監、市ガ谷監獄が初犯再犯などを入れるところ、巣鴨監獄が三犯以上の監獄人種および重罪犯などを入れるところの由。それから予らのごとき軽禁錮囚、および何か特別の扱いをうける分は、みな巣鴨に送られるのである。ついでに書いておくが女囚は八王子におかれ、未丁年囚は川越におかれる。

三 巣鴨監獄

 巣鴨監獄に着いて、サアいよいよ奈…

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