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![]() よものながめ |
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作品ID | 2955 |
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著者 | 宮本 百合子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「宮本百合子全集 第十三巻」 新日本出版社 1979(昭和54)年11月20日 |
初出 | 「近代文学」第一巻第一号、1946(昭和21)年1月 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | 米田進 |
公開 / 更新 | 2003-05-02 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 7 ページ(500字/頁で計算) |
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この数年の間、私たちは全く外国文学から遮断されて暮して来た。
第一次欧州大戦の後、ヨーロッパの文学が、どんなに変化したかということについては、或る程度知ることが出来ていた。けれども、それにしても十分ということは出来ず例えば「チボー家の人々」は、主人公である青年が、大戦を経た若い時代の精神生活の推移として、世界観を変革されてゆく部分になると、翻訳は頓挫してしまった。世界の歴史の進展によって、生きている人間の活溌な心は、変らざるを得ない、という、最も人間的な、従って最も文学的なモメントにおいて、日本の読者たちは、検閲の扉で、ぴったりとその興味ある世界から閉め出されてしまったのであった。
「欧羅巴の七つの謎」というジュール・ロマンの著作は、第二次大戦前後におけるフランスの「善意ある人々」の国際情勢というものの観かたやそれへの処しかたが如実に描き出されていて、非常に面白いし深く反省もさせる小さい本の一つであった。ヨーロッパの文化の基底をなして来たフランスの個性の評価、「指導的な個人たち」が、第二次世界大戦へ向って動く各国間の矛盾の解決に対して、無力であったばかりか、個々人の影響力というものについてロマンが抱いていた善良であるが悲しい程非現実な期待のために、ファシスト政治家の極めて計画的な国際詐略にかかっている。一定の段階までは、人間性というものの巨大な発展の目安となって来た過去のインディヴィジュアリズムが第二次大戦の開幕とともに、音を立てて崩壊する姿が、「欧羅巴の七つの謎」のあらゆる頁にうかがわれるのである。
わたし達は、ロマン及びヨーロッパ各国における一団の人々の善意の悲劇を知りたく思う。それにつけても、ロマンの近年における代表作であった「善意の人々」の完全な訳を読みたいと思う。フランスの作家ジュール・ロマンを、海峡の彼方の国々イギリスやアメリカの、平和を愛し、国際正義を希うおとなしく善意ある心情の友としたのは、その「善意ある人々」であった。
第二次大戦の参加とともに、日本では明治以来の社会的後進性がすっかり露わになった。そして悲しがなし近代的個性の自覚の上によろめき立っていた文学は、最近三年間に、殆ど文化として抵抗らしい抵抗さえも示さずに崩れ終った。ここでも、日本なりに、現代文学における過去のインディヴィジュアリズムは崩壊したのであったが、フランスに於けるその現象との間には、根本の相異が見られると思う。フランスの所謂教養の中では、十九世紀以来の個性の開花とその爛熟とが飽和点にまで達していたように見える。社会の全機構がその影響の下にあり、ガムランによって代表された軍事部門の内奥さえ、その軍人気質を情操として見た場合、殆ど哲学的に洗煉されて、いくらかシュール・リアリストがかってしまっている。古い果樹の、熟しすぎた果実として、フランスの文化伝統たる個人中心の考…