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作品ID2969
副題インテリゲンツィアと民主主義の課題
インテリゲンツィアとみんしゅしゅぎのかだい
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十三巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日
初出「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房、1952(昭和27)年5月発行
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-05-08 / 2014-09-17
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 今日、日本の民主化の課題に対して、日本のインテリゲンツィアが感じている最も大きい困難は、どういう性質のものだろうか。
 ひとくちに云いあらわせば、それは、日本のインテリゲンツィアの非常に大部分のひとが、自分たちめいめいの一生にとって、日本の民主化がどんなに血肉的な影響をもつものであるかという事実をまだ実感としていない点であり、同時に、民主主義社会の建設のために、インテリゲンツィアは、歴史の上からもどの位重大な任務を負うているかということを、十分自覚していない点にあると思う。
 日本のインテリゲンツィアの性格は、よかれあしかれ、今日において独特であり、他の国のインテリゲンツィアとちがう複雑性をもっている。それは、日本の明治からの精神史をかえりみればよくわかる。日本のインテリゲンツィアの苦悩は、いつでも、その時代と人とのうちにある進歩的な要素と封建的な要素との相剋であった。どんな文学者でも、その作家が真率な生活感情と時代感覚をもっていれば、その相剋は作品にも歴然とあらわれたし、その生死にもかかわって来ていた。透谷、二葉亭、独歩、漱石、鴎外、芥川龍之介、有島武郎、小林多喜二などの例が、それぞれの形で、この事実を語っている。
 今日、日本のインテリゲンツィアのもっている苦悩は、日本の歴史のそのような系統をひいているものではあるが、内容は変化して来ている。そして、それぞれの人に自覚されている苦悩の心理においても変化している。日本がこの十数年間、戦争強行の目的のために、インテリゲンツィアが知識人として存在するあらゆる存在機能を奪っていたことが、その変化の原因となっているのである。自主的な判断というものと、自主的に社会生活を営む自由とを人民一般が奪われていたとき、どうして知識人が、知識人たり得たであろう。すべての知識、すべての合理的探究、価値評価としての批判は封鎖されていた。在るものは、権力の強制と、その強制を可能ならせている日本の軍国的な封建的な社会の雰囲気と、知識人たる自覚を放棄した一民衆としての忍苦しかなかった。似非学者、似非作家、似非インテリゲンツィアの恥知らずな戦争協力にたいして、声に出せない眼をきつく働かして、それに反撥し、それを非難していた人々も、知識人の中には数が少くないのであった。
 ところで、一九四五年八月以後、民主主義化が日本の課題として提示されるようになった。半ば封建の闇からぬけ出ていて、しかも、封建的重圧のために脚をとられていることを最も痛切に自覚している筈のインテリゲンツィアの層こそ、雀躍して、自分の踝の鎖をたち切るために活動するだろうと期待された。しかし、現実は、単純にそう動いて来ていない。民主主義というものに対して、漠然たる懐疑めいたものが瀰漫している。民主主義という声に抵抗する心理も一部の知識人の雰囲気としてある。しかも、それは、どこま…

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