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ことの真実
ことのしんじつ
作品ID3026
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十三巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日
初出「婦人公論」1951(昭和26)年3月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-05-30 / 2014-09-17
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一九四九年の春ごろから、ジャーナリズムの上に秘史、実録、実記と銘をうたれた記録ものが登場しはじめた。
 氾濫した猥雑な雑誌とその内容はあきられて記録文学、ルポルタージュの特集が新しい流行となった。
 記録文学、ノン・フィクションの作品が生れはじめ、またうけ入れられたのには、理由があった。戦争の永い年月、わたしたちの全生活がそのために支配され、欺瞞され、遂に破壊へつきおとされながら、直接の犠牲者である人民は、戦争の現実について、また社会の事実についてほとんど一つも知る自由をもっていなかった。降伏につづく激動の時期がすぎて、人々の心には、一体ことの真実はどういうものだったのだろうか、とあらためて知ろうとする意志がめざめた。戦争によって人生を変えられてしまった多くの女性の眠られない夜々には、せめて本当のことでもわかったら、と愛するものを死なせた南の海、北の山へ馳せる思いがある。
 戦争にかりだされ、日本の帝国主義による戦争の実体に疑問を抱きながら、よぎなく侵略国の兵として他民族のけちらかされた生活のあいだにおかれてきた人々。戦争、軍隊生活そのものの野蛮さ、空虚さ、偽善に人間としての憤りを深くめざまされながら、それについては手紙に書くことも日記にかくことも許されなかった人々。天皇の名によって行われていたスパイと憲兵の絶対的な軍国主義権力が崩れて三年四年たってみると、情報局の報道と大本営発表でかためられた偽りの壁と封印の跡が、あたらしい回想と、そこに湧く批判の真実に消されはじめた。一九四五年の秋「君たちは話すことができる」という記念的な東宝のニュース映画がつくられて、感動をもって観られたころには、まだほぐれなかった唇が、やっと語られはじめたというところがあった。
 記録文学のあるものは、日本帝国主義軍隊の戦争、敗北、潰滅が、そのかげにかくしていたさまざまの歴史的事実を一般の人々の批判のあかるみにだし、侵略戦争の本質について考えさせ、まじめな役割を果した。いま公判がひらかれている吉村隊長が、外蒙の日本人捕虜収容所のボスとして行った残虐と背徳行為が社会問題化したのは、「暁に祈る」という怪奇なテーマをもつ記録文学がいくとおりか発表され、輿論の注目をひいたためであった。現地の軍当局の信じられないほどの無責任、病兵を餓死にゆだねて追放するおそろしい人命放棄についても記録されはじめた。大岡昇平氏の「俘虜記」そのほかの作品に見られる。ソヴェト同盟に捕虜生活をした人々のなかから、「闘う捕虜」「ソ同盟をかく見る」「われらソ連に生きて」そのほかのルポルタージュがあらわれた。それらは日本軍隊の伝統的な野蛮さとたたかって捕虜生活の民主化に努力した記録。ソ同盟の社会主義社会の運営方法や建設の現実を、捕虜という条件にいながらも公平に評価しようとした若い学徒兵たちの記録。ソ同盟での捕虜生活につい…

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