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火星探険
かせいたんけん
作品ID3049
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第11巻 四次元漂流」 三一書房
1988(昭和63)年12月15日
初出「サイエンス」1945(昭和20)年12月~1946(昭和21)年11月
入力者tatsuki
校正者土屋隆
公開 / 更新2005-03-22 / 2014-09-18
長さの目安約 159 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   すばらしい計画


 夏休みになる日を、指折りかぞえて待っている山木健と河合二郎だった。
 夏休みが来ると二人はコロラド大峡谷一周の自動車旅行に出る計画だった。もちろん自動車は二人がかわるがわる運転するのだ。往復に五週間の日数があててあった。これだけ日数があれば、憧れの大峡谷で十分にキャンプ生活が楽しめるはずだった。
 二人は、この大旅行に出ることが非常にうれしかったので、前々から近所の友だちにもふれまわっておいた。友だちはそれを聞いてうらやましがらない者はなかった。そしてぜひいっしょに連れて行ってくれと頼まれるのだった。しかし二人はそれを断りつづけた。というのは、二人が使うことになっている自動車にいささかわけがあったのである。何しろ二人とも親許をはなれている少年だったので、おこづかいは十分というわけには行かなかった。そこで学業のひまに新聞を売ったり薪を割ったりして働いて得た金を積立てて自動車を買うわけであるから、あまり立派なものは手に入らなかった。今二人が頼んであるのは、牧場で不用になった牛乳配達車であり、しかもエンジンが動かなくなって一年も放りだしてあったというたいへんな代物で、二人にはキャンプ材料に食糧を積むのがせいいっぱいであると思われた。
 しかし友だちには、その大旅行の自動車がそんなひどい車である事を知らせず、非常に大きな車で、中で寝泊りから炊事から何から何まで出来るりっぱなものだと吹いておいたものだから、さてこそわれもわれもと、連れて行くことをねだられるのだった。
 そういう友だちの中で、とりわけ熱心にねだる者が二人あった。ひとりは中国人少年の張であり、もう一人は黒人のネッドであった。山木も河合も、張とネッドなら連れていってやりたかったけれど、何をいうにも自動車のがたがたなことを考えると、やっぱり心を鬼にして断るしかなかった。それでも張とネッドはあきらめようとはせず、毎日のように校庭で山木と河合とにねだるのだった。
 或る日ネッドは、山木と河合とが修理のため牧場の自動車小屋へ行くと後からついて来て、ぜひ連れて行けとねだるのだった。二人はおんぼろ自動車を見られてはたいへんだと思い、道の途中でネッドをおいかえすのに骨を折らねばならなかった。
「山木に河合よ」
 ネッドはいつになくかたちを改めて二人を見つめた。
「なんだ、ネッド」
 二人は道のまん中に立ちふさがって、ネッドのかたい顔をにらみつけた。
「あのね、張がほんとうに心配していることがあるんだよ。二人が自動車旅行に出て行くと二日とたたないうちに、君たちはたいへんな苦労を背負いこむことになるんだってよ」
「へん、おどかすない」
「おどしじゃないよ。張がね、君たちの旅行の安全のために、ご先祖さまから伝えられている水晶の珠を拝んで占ってみたんだとさ、すると今いったとおり、二日以内によくないこと…

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