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時計屋敷の秘密
とけいやしきのひみつ |
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作品ID | 3054 |
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著者 | 海野 十三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「海野十三全集 第11巻 四次元漂流」 三一書房 1988(昭和63)年12月15日 |
初出 | 「東北小国民」1948(昭和23)年5月~10月、「AOBA」(「東北小国民」改題)1948(昭和23)年11月~12月 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | kazuishi |
公開 / 更新 | 2006-01-26 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 75 ページ(500字/頁で計算) |
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気味のわるい名物
「時計屋敷はおっかねえところだから、お前たちいっちゃなんねえぞ」
「お父うのいうとおりだ。時計屋敷へはいったがさいご、生きて二度とは出てこられねえぞ。おっかねえ化け物がいて、お前たちを頭からがりがりと、とってくうぞ」
「化け物ではねえ、幽霊だ」
「いや、化け物だということだよ」
お父うとお母あが、そこで化け物だ幽霊だと、口争いをはじめてしまったが、とにかくこの「時計屋敷」のこわいことは、村の子供たちはよく知っていた。
その時計屋敷とは、いったい何であろうか。
この左内村の東はずれにあたる山腹に、昔からこの時計屋敷が見られた。がんじょうな塀にかこまれた邸で、まん中に二階づくりの西洋館があり、そして正面にはりだして古風な時計台がそびえているのだった。
その時計台も洋館も、昔からあれはてていて、例のおそろしいいいつたえと共に、だれも近づくものはなかった。
窓の戸はやぶれ、屋根には穴があき、つきだしたひさしはひどくひん曲っていた。ペンキの色もすっかりはげて、建物はミイラ色になっていた。
時計台の大時計は、二時をさしたまま、動かなくなっていた。今この村に生きている者で、誰もこの時計が動くのを見た者がなかった。
この時計屋敷が、いつ、そこに建てられたのかそれを知っている人は、あまり多くなかった。それは[#「それは」は底本では「それが」]明治維新の前後に出来たもので、どこの国の白人かはしらないが、ヤリウスという鼻の高い赤いひげのからだの大きな人が、そこへあれを建てたということだ。
一説に、そのヤリウスは、白人と日本人の混血児だとも伝えられていて、この方が正しいのかもしれないと思われる。
とにかくそのヤリウスは、百五十人ばかりの人を連れて来て、その建築工事をはじめた。左内村の人たちは、ぜひその仕事にやとってもらいたくて、代々庄屋の家柄の左平をはじめ若者たちもその工事場へいってたのんだのであったが、ヤリウスは首を左右にふって、左内村の人間をただ一人もやといいれなかった。村人は、がっかりし、そしてヤリウスをうらみ、時計台をにらみつけては新築屋敷のことをのろった。
建築は手間どって、春から始めた工事がすっかり出来上ったのは、夏も過ぎ、秋もたけ、木枯の吹きまくったあとに、白いものがちらちらと空から落ちて来る冬の十二月はじめだった。さかんな新築祝いの宴が、時計屋敷で三日三晩にわたって行われたのち、百五十人の建築師たちは、村人にあいさつもせず、風のようにこの土地を去った。
それと入れ替えに、その翌日たくさんの荷物を積んだ馬が屋敷へはいっていった。そして、それから時計屋敷の窓々からは、あかるいともし火がかがやき、ヤリウスの豪華な生活がはじまったのである。
ヤリウスは、そこに四五年住んでいた。
そして、とつぜん彼の姿は村の人の目から消えた…