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作品ID | 3085 |
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著者 | 宮本 百合子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社 1979(昭和54)年7月20日 |
初出 | 「働く婦人」1932(昭和7)年8月号 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | 米田進 |
公開 / 更新 | 2003-07-06 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 7 ページ(500字/頁で計算) |
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みなさん、しばらくでした。
私は去る四月七日、ブルジョア、地主の官憲が日本プロレタリア文化連盟に加えた狂気のような暴圧によって捕えられ、六月二十五日、八十日間の検束の後、再び自由を奪いかえして出て来ました。幸い、体も大しては悪くならず、また活動できるようになったその第一の挨拶を送ります。そして、わたしら『働く婦人』共通の問題として、今度の経験をみなさんに簡単に報告したいと思います。
ちょうど『働く婦人』五月号の原稿締切が目前に迫った四月七日の夕方でした。私がよそから何心なく家へ帰って来たら、警視庁特高の山口がはり込んでいて、任意出頭の形式で所轄署へ来いということです。(この山口というのは文化団体関係では有名な白テロ係りで、去る六月十九日の日本プロレタリア文化連盟拡大協議会が築地小劇場であった時、明治大学の学生の頭をステッキで破って目下職権濫用、傷害罪で告訴されています)所轄署駒込署へ行くと、中川というこれも文化団体弾圧専門の特高が待ちかまえていて、日本プロレタリア文化連盟のことで私を調べなければならぬということです。私は日本プロレタリア文化連盟の活動が、われわれ勤労大衆の現実の生活とどんなに強く結びついているものであるかを知っているから、文化連盟に関して調べるといわれても心配は一つもありませんでした。すでに三月二十七日頃から敵は文化連盟への攻撃を開始し、書記長小川信一をはじめ窪川・壺井・村山・中野など大切な同志をひっぱって行っている。敵が大規模にわれわれ日本プロレタリア文化連盟への打撃を計画していることは明らかなのでありました。
さて、私は留置場へぶち込まれているが、警視庁からは十日に一ぺんぐらい中川がちょっと来てまとまりないことを訊いて行くきりです。そのうち検閲関係の清水というのが来て『働く婦人』の問題を持ち出した。わたしらの雑誌『働く婦人』の調子が号を重ねるにつれきつくなって、四月号などは男の雑誌か女の雑誌かわからないほど高度になっている。これでは黙っておけぬ、というのです。とくに、四月号には前号から引つづき日本帝国主義侵略戦争反対の意見をのべた読者皆さんの熱心な投書をのせている。その中でいけないのがあるとか「時評」にわるいところがあるとか、つまり毎号意地悪く発禁攻めにしても大衆の伸びる力はおそろしい。次第次第に育って来る『働く婦人』をつぶす口実を、編輯長である私の答弁の中からひっぱり出そうとするわけです。
いくらブルジョア、地主の官憲がいけないといったところで、わたしら働く婦人みんな本当に腹から帝国主義戦争には絶対反対なのだし、雑誌の調子がきつくなって来たといわれても、わたしらの生活の土台となっている資本主義の世の中の行き詰りがまず日増しにきつくなって来ているのだから仕方がない。『働く婦人』の問題は、「尊厳冒涜」という意味のところで一応納まり…