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男女交際より家庭生活へ
だんじょこうさいよりかていせいかつへ
作品ID3143
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日
初出「女性日本人」1922(大正11)年3月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-07-25 / 2014-09-17
長さの目安約 36 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 先頃の『弘道』に掲載された「日本人の理想に吻合しない西洋人の家庭生活」と云う記事を読み、種々な感想の湧上るのを覚えました。
 全篇の結論として、目下問題とされている家族制度、家庭生活改善の理想を徒に外国の風習などに摸倣せず、日本は日本民族独特の見地から、識見を以て発足すべきであると云う主旨には、恐らく何人も意義を挾む者はないでしょう。
 あらゆる国々の習俗には、悉く美点と欠点とが並行しています。人間が、或る場合自己の天分によって却って身を過つことがあるように、一国にしても、或る時には、その是とすべき伝統的習俗によって、却って真実な人間的生活に破綻を生ぜしめることが多くあります。それ故、徒に新奇を競うて、外国人の営む生活の形骸を真似るのは、全く笑うべく悲しむべきことです。
 併し、一国の文化、社会状態を観察した場合に、何時も、その裏面、消極的方面のみに注目するのは、果して妥当な態度でしょうか。
 他人の話を聞き、他人に会い、その言動の裡から欠点ばかりを摘発するとしたら、結局自分は、今在るだけの自己を肯定するばかりで、何ら新らしい利益を得たことにならないのではありませんか。同様のことが、外国旅行者にも云えると思います。
 その上、日常生活はまるで日本とは違い、言語まで、その微妙な点で自分達の持合わせた感情とは異った内容を含蓄しているような場合、先ず、変なこと、妙なことの方が、一般の地味な社会生活の基礎よりは目立って見え、注意を牽くのは当然です。一寸見た場合、完全な顔の道具だてを持っている者よりは、大きな痣でも頬にある者の方が人目を欹てしめる。けれども、それが人類に与えられた顔として典型的なものであると云う人はありませんでしょう。
 修辞上の効果から云えば、自己の主張し肯定しようとする一方のものを引立てるために、それと対照する他の一方のものを強調して描くのが賢い方法であるかもしれません。
 併し、或る国の社会状態を紹介し、批評し、未だそれを直接見聞したことのない人々にも、思索の材料として提供しようとする場合、講演者なり、著者なりの眼の着け処は、真に大切なものではないでしょうか。
 最も、公平でなければなりません。美しい方面も、非難すべき方面も、共に見て、その間に横わる美なる理由、非とすべき理由を研究しなければならないものではあるまいかと考えるのです。
 例えば、外国人の著書に屡々欧米の婦人運動、又は女性の社会に於ける位置の進化というものの研究材料として、東洋、多く支那、日本のそれを例に引く場合を考えて見ましょう。
 彼等は、日本の婦人が全く奴隷的境遇に甘じ、良人は放蕩をしようが、自分を離婚で脅かそうが、只管犠牲の覚悟で仕えている。そして、自分の良人を呼ぶのにさえその名を云わず“Our master”と呼ぶ、と云ったと仮定します。
 これを見た日本人は、恐らく、一…

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