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霜
しも |
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作品ID | 3204 |
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著者 | 金田 千鶴 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「定本金田千鶴全集」 短歌新聞社 1991(平成3)年8月20日 |
初出 | 「つばさ 第二巻第八号」つばさ発行所、1931(昭和6)年9月1日 |
入力者 | 林幸雄 |
校正者 | 土屋隆 |
公開 / 更新 | 2009-04-14 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 21 ページ(500字/頁で計算) |
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『年寄には珍らしい』と、老婆の大食が笑ひ話に、母屋の方の人達の間で口にのぼるやうになった頃は最早老婆もこの家の人達に厭きられはじめてゐた。つまりそれ丈役立たぬ体となったのである。その事は老婆自身も無意識のうちに感じてゐて何彼につけて肩身狭さうにした。時折米を持ちに行く穀倉の戸を気兼さうにあけた。『容れ物そこへ置いてお出でな、後で持って行ってあげるで……』孫嫁に当る繁子がさう云って倉の中の仕事をしてゐる所へ行ったりすると、『そりゃまあおかたじけな!』と云って老婆は邪魔にならぬやうに、米櫃代用のブリキ罐を其処へ置いて出て来るのだった。それがひどく手持無沙汰の恰好に見えた。薪や粗朶を納屋から運び込むにも何かしら人目を憚かるやうにこそこそ運んだ。
老婆は火を焚くことが好きだった。
体が今程不自由でなかった頃は、裏の山へ出掛けて枯木を拾ったり、松葉を掻いたりして来るのを仕事にしてゐた。抱へ切れぬのはズルズルひきずって持って来た。
今ではもうその元気はなかった。薪にしても粗朶にしても納屋から運んで来るのは気兼だった。然し老婆は焚きものが切れると何よりも心細くて堪らなかった。隠居所の土間に焚きものを絶やさぬやうにして置きたかった。
それで隙さへあれば少しづつでも運び込んだ。そして炉端に坐ってどんどん大きな火を焚いた。小さな鉄瓶一つ掛けた丈で大きな火を焚き放題にするので、隠居所の中はどこもかも真黒に煤び切って、天井からは白い焚埃りが降るほど舞ひ落ちて来る中にいつ迄も坐り込んでゐるのが常だった。それで時々焚き放しにしておいて外へ出て行く癖だった。
『なんたら大きい火を焚いて!』
通りがかりの主婦のかめよは驚いて隠居所を覗いた。『どうしてこんなに火を焚きたいらか?』かめよは独り言を云って、二三本のまきを灰にこすりつけて火をとめた。
老婆の火を焚く癖も近頃は殆んど病的に募って行くやうだった。
『おばあさま、お茶がよう煮えとる!』
かめよは老婆が抱へるやうにして入って来た大きな榾に素早く目をとめた。
『そいつはおばあさま、新にさう云って割って貰はにゃそのまんまぢゃ大き過ぎるで……』
『なに、大きいやつを一つくべとくと火持ちがいいで……』
老婆は頑固さうな口調で云った。
『火持ちはいいが、なんしろ危ないで……よっぽど気を付けんと火のやうな怖かないものはない……』
老婆は素直に頷づいた。
前に幾度か火の粗相があったので、火といふとかめよもくどかった。
炉端へ置いたものへ火が移ってブスブスと燃えはじめ危ふい所をかめよがふと見付けたのも遂最近の事だった。老婆は只ウロウロとしてゐた。ひとりで始末をつけようとしてゐるのだった。それが危ぶないので大事になる因だと、かめよもその時は気が立ってゐたのでづけづけとしたことを云った。
『そんなに云はんたってもうぢき死ぬわい!』
老…