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未来の地下戦車長
みらいのちかせんしゃちょう |
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作品ID | 3234 |
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著者 | 海野 十三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「海野十三全集 第7巻 地球要塞」 三一書房 1990(平成2)年4月30日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | kazuishi |
公開 / 更新 | 2006-10-26 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 86 ページ(500字/頁で計算) |
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かわった手習い
岡部一郎という少年があった。
彼は、今年十六歳であった。
彼の家は、あまりゆたかな生活をしていなかった。それで彼は、或電灯会社につとめて、もっぱら電灯などの故障の修理を、仕事としている。なかなか一生けんめいに働く一郎であった。
彼は、中学校へもあがれなかったが、技術は大好きであった。そのうち、電気工事人の試験をうけて、一人前の電気工になろうと思い会社の係長さんに、いつも勉強をみてもらっている。
ところが、その一郎が、近頃、なにに感じたものか、毎朝起きると机に向って墨をする。
墨がすれると、こんどは、古い新聞紙を机の上にのべて、筆に、たっぷり墨の汁をふくませる。それから、筆を右手にもって、肘をうんと張り、新聞紙の面にぶっつける。
“未来の地下戦車長、岡部一郎”
これだけで十二文字になる。
この十二文字を、彼は、古新聞の両面が、まっくろになるまで、手習いをするのである。
一昨日も、やった。昨日もやった。今日もやった。だから、明日も、やるであろう。
書く文字は、いつも同じである。
“未来の地下戦車長、岡部一郎”
毎朝、この文字を三十二へんぐらいも、習うのである。
字が上手になるためのお習字かと思うと、そうばかりではない。いや、はっきりと一郎の気持をいうと、字のうまくなることは、第一の目的ではなく、第二以下の目的だ。第一の目的は、なにかというのに、それはもちろん、本当に、未来において地下戦車長になることだった。
地下戦車長!
地下戦車――なんて、そんなものが有るのであろうか。
地下戦車とは、地面の下をもぐって走る戦車のことである。そんな戦車がある話を、だれも、きいたことがない。だが、一郎は、いうのである。
「そうでしょう。どこにもない戦車でしょう。だから僕は、地下戦車を作って、その戦車長になりたいんだ。ああ、地下戦車! そんなものがあれば、どんなにいいだろう。日本の国防力が、うんと強くなるにちがいない。だから僕は、きっと作りあげるのだ。地下戦車を!」
岡部一郎は、そんな風に、いうのであった。
それは、正しく一郎のいうとおりであった。地下戦車とは、じつにすばらしい思いつきである。地下戦車が出来たら、そいつは、どんどん、地面の下を掘っていって、敵陣の真下に出るのであろう。そして、爆薬をそこに仕掛けるとか、或いは、めりめりと、敵の要塞のかべを破って、侵入する。さぞや敵は、胆をつぶすことであろう。たしかに、そいつは強力な兵器である。
一郎の思いつきは、じつに、すばらしいのであるが、はたして、そんなものが出来るであろうか。こいつは、なかなかむつかしい問題である。
「そんなもの、出来やしないよ。だって、水の中や空気の中じゃないんだもの。地面を掘ってみても、すぐわかるけれど、土というものは、案外かたいものだよ」
と、…