えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
地球要塞
ちきゅうようさい |
|
作品ID | 3239 |
---|---|
著者 | 海野 十三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「海野十三全集 第7巻 地球要塞」 三一書房 1990(平成2)年4月30日 |
初出 | 「譚海」1940(昭和15)年8月~1941(昭和16)年2月号 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | 土屋隆 |
公開 / 更新 | 2004-07-03 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 147 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
怪放送――お化け地球事件とは?
西暦一九七〇年の夏――
折から私は、助手のオルガ姫をつれて、絶海の孤島クロクロ島にいた。
クロクロ島――というのは、いくら地図をさがしても、決して見つからないであろう。
クロクロ島の名を知っている者は、この広い世界中に、まず五人といないであろう。クロクロ島は、その当時、西経三十三度、南緯三十一度のところに、静かに横たわっていた。
そこは、地図のうえでみて、ざっと、南米ブラジルの首都リオを、南東へ一千三百キロほどいったところだった。
「その当時……横たわっていた」といういい方は、どうもへんないい方だ、と読者は思われるであろうが、決してへんないい方ではない。そのわけは、いずれだんだんと、おわかりになることであろう。
さて私は今、そのクロクロ島のことについて、自慢らしく読者に吹聴しようというのではない。私が今、ぜひとも、ここに記しておかなければならないと思うのは、或る夜、島のアンテナに感じた奇怪きわまる放送についてである。
その夜、私は例によって、只ひとり食事をすませると、古めかしい籐椅子を、崖のうえにうつした。
海原を越えてくる涼風は、熱っぽい膚のうえを吹いて、寒いほどであった。仰げば、夜空は気持よく晴れわたり、南十字星は、ダイヤモンドのようにうつくしく輝いて、わが頭上にあった。
私は、いささかわびしい気もちであった。
その気もちを、ぶち破ったのは、オルガ姫の疳高い悲鳴だった。
「あッ、大変、大変よ」
疳高い叫び声と同時にオルガ姫は、とぶように駈けてきた。
「どうした、オルガ姫!」
「怪放送がきこえていますのよ。六万MCのところなんですの」
姫は流暢な日本語で、早口に喋る。
「六万MC、するとこの間も、ちょっと聴えた怪放送だね。――録音器は、廻っているだろうね」
「ええ、始めから廻っています」
「ああ、よろしい。では、五分ほどたって、そっちへいく」
姫は、にっこりとうなずいて、地下室へつづく階段の下り口の方へ、戻っていった。
六万MCの怪放送!
この怪放送をうまくとらえたのは、これで二度目だ。前回は、惜しくも目盛盤を合わせているうちに、消え去った。いずれそのうちまた放送されるものと思い、このたびは、自動調整に直しておき怪放送が入ると同時に、オルガ姫が活躍するようにしておいたのである。
さて今夜は、録音器が、どんな放送を捕えたであろうか。
私は、階段を下りていった。
オルガ姫は、録音テープを捲きとって、発声装置にかけているところであった。
私は、すぐ始めるように命じた。
モートルが動きだすと、壁の中にはめこんだ高声器から声がとびだした。
「――器械が捕えたものであって、時は西暦一九九九年九月九日十九標準時、発信者は、金星に棲むブブ博士……」
そこまでは、明瞭にきき取れたが、そのあと…