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春遠し
はるとおし
作品ID3256
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十五巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日
初出「働く婦人」再刊号、日本民主主義文化連盟、1946(昭和21)年4月発行
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-09-17 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 総選挙はひとまず終った。
 気づかわれていた婦人の棄権も案外にすくなく、棄権は全国平均して二割七分七厘。婦人候補者の四割八分は当選して二十八歳から六十六歳まで三十九名の婦人代議士が当選した。今回の総選挙で計四六四名の代議士が選出されたなかで、最高点を占めた婦人候補者が五名もいるのである。
 この結果は、誰にとっても、いくらか予想外の感じを与えている。婦人の進出の目ざましさは大変派手やかに写真入りで各新聞に語られているし、外人記者も、珍しいこととして注目している。進歩党や自由党の首領たちは、得票を婦人にくわれたと表現しているのである。
 日本の婦人は政治に無関心であると、どの位云われて来ただろう。婦人自身にしても、参政権などよりも、やすいお藷がほしいと云い、それどころか暇がなくて、と、何度云って来たことだろう。それにもかかわらずこういう結果があらわれた。婦人たちが、そんなに急に、自分たちの生活のひどさの理由を発見し、そんなに急に自覚して来たというわけなのだろうか。
 私たちは、自分たちの幸福のために今度の総選挙の結果を落ちついて吟味して見なければならないと考える。
 第一、今度の総選挙は、日本の民主化のための重大な国民の行事であった。そのために、四月十日は休日になった。それほど大切な投票であるのに、全国で十四万人余の選挙人名簿記載洩れが生じた。新聞は、婦人参政権のために、殆ど一生を費して来た市川房枝女史が、当日わざわざ遠方の投票所へ行ってはじめて記載洩れで投票出来ないことを発見した気の毒な実例を報じた。市川房枝さんの心持はどんなであったろう。そういう人が、何万人とあるわけである。青森市では、記載もれの市民大会が開かれ、市長以下責任者が退陣しなければならなくなった。長野の或るところでは、役場の責任者が、責任感から行方不明となり、自殺したかもしれないと云われている。
 このような大量な記載もれの生じた原因は、何だったのだろうか。役所では、隣組や町会に国民調査をまかした結果として、この次は各自申告をさせる、と云っている。しかし、ただ調査のやりかたの不十分というばかりではないと思える。やはり根本には、総選挙というものが、わたしたち一人一人の生活の打開のために、どれほど大切な関係をもっているかということについて役人たちがしんから真剣な気持をもっていなかったからであると思う。民主的な選挙がされなければ日本は破滅だということについて実感がなかったからであると思う。
 このいい加減な気分は、もっと大きく、選挙の結果にあらわれている。
 自由党 一四一名  進歩党 九三名  社会党 九二名  共産党  五名
 協同党  一四名  諸派  三九名  無所属 八〇名  計  四六四名
 右の表を見て、誰が今度の総選挙が、民主の勝利した選挙であったと考えるであろう。当選した各党代議…

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