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自覚について
じかくについて
作品ID3268
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十五巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日
初出「女性展望」1947(昭和22)年5月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-09-20 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 わたしたちの生活に平和が戻り新しい民主生活の扉が開かれて、二度目の春を迎えることになりました。
 昨年はわたしたち婦人にとって初めての経験である総選挙も行われ、そのほかずいぶん多事な一ヵ年を過しました。そして今日わたしたちがいちばん痛切に感じていることはなんでしょう。世界のなかに新しい日本として生きてゆくために、そしてまたわたしたちの新しい生活を築いてゆくために、婦人の生きかたというものは、もっともっとよく考えられ、よく組織され、大幅に前進しなければならないという痛切な反省であると思います。
 これまでの日本の歴史のなかで、婦人がしおおせてきた役割は非常に大きいものです。またさきごろの戦争の間に、婦人が忍んできたぎせいと、今日までもその傷あとがどんなに深くわたしたちの生活に残されているかということは、すべての人が知っています。
 婦人の自覚ということがいわれ、婦人自身その要求を持っていますけれども、自覚ということばは何を現実のより所としてわたしたちの生活にもたらされるものなのでしょうか。なにをどう自覚することがほんとうの自覚なのでしょうか。婦人問題を語る人は、あまりこの自覚という言葉を、そのものだけで世間にばらまくので、わたしたちはまるで道ばたに焼跡があるように、そしてそれを見なれてしまっているように、自覚という言葉を聞きなれて、しかもほんとうのその内容を知らないまま、ただ口伝えに繰返していると思います。
 自覚という言葉をここに借りて、わたしたちの現実の生きている心持の状態を調べてみると、自覚という言葉を充分知っている若い女性たちが、生活の現実では自覚していないというギャップがあちらこちらに見られます。これはわたしたちの受けた教育の悲劇です。日本の社会のこれまでのしきたりの悲劇です。わたしたちは言葉よりもさきに、言葉で現わされている生活の実質を身につけるということこそ必要なのに。
 若い女性たちの夢は多種多様です。その夢を託す一つのよすがとして、婦人雑誌はどれもこれも争ってけばけばしい表紙をつけてたくさんの服飾写真を載せています。到る処でいろいろな流行歌がうたわれています。アメリカ映画はどんどん入ってきます。銀座の街は植民地の店々のような色彩を溢らせています。そこを歩いている日本の若い女性たちは、目に入りきらないほどの色彩や、現実の自分の生活の内容には一つもじっくり入りこんでいない情景を、グラスのなかの金魚を外から眺めるように眺めて、時間のたつのも忘れ、わずか一杯のあったかいもので楽しもうとする気持を現わして歩きまわります。
 しかし今日のわたしたちの生活にはまず電力節減、燃料不足などという、極めて原始的な困難から始って、温い冬の靴下がないという困難にまで及んでいます。どんな人でもくさくさすればそこから自分の心持を紛らすことを望みます。どんな若い人が自分…

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