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ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記
ペンネンネンネンネン・ネネムのでんき
作品ID33195
著者宮沢 賢治
文字遣い新字新仮名
底本 「ポラーノの広場」 新潮文庫、新潮社
1995(平成7)年2月1日
入力者土屋隆
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2010-03-06 / 2014-09-21
長さの目安約 55 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   一、ペンネンネンネンネン・ネネムの独立

 〔冒頭原稿数枚焼失〕のでした。実際、東のそらは、お「キレ」さまの出る前に、琥珀色のビールで一杯になるのでした。ところが、そのまま夏になりましたが、ばけものたちはみんな騒ぎはじめました。
 そのわけ〔十七字不明〕ばけもの麦も一向みのらず、大〔六字不明〕が咲いただけで一つぶも実になりませんでした。秋になっても全くその通〔七字不明〕栗の木さえ、ただ青いいがばかり、〔八字不明〕飢饉になってしまいました。
 その年は暮れましたが、次の春になりますと飢饉はもうとてもひどくなってしまいました。
 ネネムのお父さん、森の中の青ばけものは、ある日頭をかかえていつまでもいつまでも考えていましたが、急に起きあがって、
「おれは森へ行って何かさがして来るぞ。」と云いながら、よろよろ家を出て行きましたが、それなりもういつまで待っても帰って来ませんでした。たしかにばけもの世界の天国に、行ってしまったのでした。
 ネネムのお母さんは、毎日目を光らせて、ため息ばかり吐いていましたが、ある日ネネムとマミミとに、
「わたしは野原に行って何かさがして来るからね。」と云って、よろよろ家を出て行きましたが、やはりそれきりいつまで待っても帰って参りませんでした。たしかにお母さんもその天国に呼ばれて行ってしまったのでした。
 ネネムは小さなマミミとただ二人、寒さと飢えとにガタガタふるえて居りました。
 するとある日戸口から、
「いや、今日は。私はこの地方の飢饉を救けに来たものですがね、さあ何でも喰べなさい。」と云いながら、一人の目の鋭いせいの高い男が、大きな籠の中に、ワップルや葡萄パンや、そのほかうまいものを沢山入れて入って来たのでした。
 二人はまるで籠を引ったくるようにして、ムシャムシャムシャムシャ、沢山喰べてから、やっと、
「おじさんありがとう。ほんとうにありがとうよ。」なんて云ったのでした。
 男は大へん目を光らせて、二人のたべる処をじっと見て居りましたがその時やっと口を開きました。
「お前たちはいい子供だね。しかしいい子供だというだけでは何にもならん。わしと一緒においで。いいとこへ連れてってやろう。尤も男の子は強いし、それにどうも膝やかかとの骨が固まってしまっているようだから仕方ないが、おい、女の子。おじさんとこへ来ないか。一日いっぱい葡萄パンを喰べさしてやるよ。」
 ネネムもマミミも何とも返事をしませんでしたが男はふいっとマミミをお菓子の籠の中へ入れて、
「おお、ホイホイ、おお、ホイホイ。」と云いながら俄かにあわてだして風のように家を出て行きました。
 何のことだかわけがわからずきょろきょろしていたマミミ〔一字不明〕、戸口を出てからはじめてわっと泣き出しネネムは、
「どろぼう、どろぼう。」と泣きながら叫んで追いかけましたがもう男は森を抜けてず…

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