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雷のさずけもの
かみなりのさずけもの
作品ID33209
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者佳代子
公開 / 更新2004-03-25 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 むかし、尾張国に一人のお百姓がありました。ある暑い夏の日にお百姓は田の水を見に回っていますと、急にそこらが暗くなって、真っ黒な雲が出てきました。するうち雲の中からぴかりぴかり稲妻がはしり出して、はげしい雷がごろごろ鳴り出しました。やがてひどい大夕立になりました。お百姓は「桑原、桑原。」と唱えながら、頭をかかえて一本の大きな木の下に逃げ込んで、夕立の通りすぎるのを待っていました。すると間もなく、がらがらッと、天も地もいっしょに崩れ落ちたかと思うようなすさまじい音がしました。お百姓は思わず耳を押さえて、地の上につっ伏しました。
 しばらくしてこわごわ起き上がってみますと、つい五六間先に大きな光り物がころげていました。お百姓はふしぎに思って、そっとそばに寄ってみますと、それは奇妙な顔をして、髪の毛の逆立った、体の真っ赤な、子供のような形のものでした。
 これは雷があんまり調子に乗って、雲の上を駆け回るひょうしに、足を踏みはずして、地の上に落ちて、目を回したのでした。お百姓は、
「ははあ、なるほど、これが話に聞いた雷かな。何だ、こんなちっぽけな、子供みたいなものなのか。」
 と思いながら、半分は気味が悪いので、いきなり鍬を振り上げて、打ち殺そうとしますと、雷は気がついて、あわててお百姓を止めました。
「まあ、そんな乱暴なまねをしないで下さい。つい雲を踏みはずして落ちてきただけで、何もあだをするのではありませんから、どうぞ勘弁して下さい。」
 こう雷はいって、手を合わせました。お百姓は、
「雷、雷って、どんなにこわいものかと思ったら、一度落ちると、からきし、いくじのないものだ。」
 と思って、
「じゃあかわいそうだから助けてやる。だがこんどから落ちることはならないぞ。そのたんびにびっくりするからな。」
 といって、許してやりました。
 すると雷は大そうよろこんで、
「どうもありがとう。何かお礼をさし上げたいが、あいにく何も持って来ませんでした。何でもほしい物があったらいって下さい。空に帰ったら、きっとおくって上げますから。」
 といいました。
 するとお百姓はしばらく考えていましたが、
「さあ、何かほしい物といったところで、このとおり体は丈夫で、毎日三度のごぜんを食べて、働いていれば、何も不足なことはないが、ただ一つ六十になって、いまだに子供が一人もない。これだけはいつも不足に思っている。」
 といいますと、
「じゃあさっそく子供を一人さずけて上げましょう。そのうちお前さんのおかみさんにふしぎな強い子が生まれるでしょうから、それはわたしがおくってあげたのだと思って下さい。その代わり一つお願いがあります。どうぞくすのきで舟をこしらえて、水をいっぱい入れて、その中にささの葉を浮かべて下さい。」
 といいました。
「何だ、そのくらいなことわけはない。その代…

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