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人造人間戦車の機密
じんぞうにんげんせんしゃのきみつ
作品ID3343
副題――金博士シリーズ・2――
――きんはかせシリーズ・に――
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第10巻 宇宙戦隊」 三一書房
1991(平成3)年5月31日
初出「新青年」1941(昭和16)年6月
入力者tatsuki
校正者まや
公開 / 更新2005-06-21 / 2014-09-18
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     1


 魔都上海に、夏が来た。
 だが、金博士は、汗もかかないで、しきりに大きな手押式の起電機を廻している。室内の寒暖計は、今ちょうど十三度を指している。ばかに涼しい室である。それも道理、金博士のこの実験室は、上海の地下二百メートルのところにあり、あの小うるさい宇宙線も、完全に遮断されてあるのであった。
 天井裏のブザーが、奇声をたてて鳴った。
「ほい、また来客か。こう邪魔をされては、研究も何も出来やせん」
 博士は、例の無精髭を、兎の尻尾のようにうごかして、天井裏を睨みつけた。
「博士、御来客です。醤買石閣下の密使だそうです。はい、只今、X線で、身体をしらべてみましたが、何も兇器は所持して居りません。どういたしますか」
 姿は見えないが、声だけの秘書が、用事を取次いだ。
「何か土産を持っている様子か」
「なんだか、大きな風呂敷包を、背負って居ります。どうやら羊か何からしく、X線をかけると、長い脊髄骨が見えました」
「羊の肉は、あまり感心しないが、糧食難の折柄じゃ、贅沢もいえまい」
「では、通しますか」
「とにかく、こっちへ通してよろしい。土産物を見た上で、話を聞くか、追払うか、どっちかに決めよう」
 博士は、把手から手を放すと、手をあげて、禿頭をガリガリと掻いた。
 醤の密使油蹈天氏が、その部屋に現れたのは、それから五分ばかりたって後のことであった。
「おう。油蹈天か。お前が来るようじゃ、大した土産もないのであろう」
 博士は、密使の顔を見て、率直に落胆の色を現した。
「いや、博士。本日は、わが醤主席の密命を帯びてまいりましたもので、きっと博士のお気に入る珍味をもってまいりました」
「羊の肉は、くさくて、嫌いじゃ。第一、羊の肉が、珍味といえるか」
「羊の肉ではございません。なら、用談より先に、これをごらんに入れましょう」
 密使は、背中に負っていた大きな包を、機械台のうえに下した。博士は、鼻をくんくんいわせながら、傍へよってきた。
「燻製じゃな。いくら燻製にしても、羊特有の、あの動物園みたいな悪臭は消えるものか」
「まあ、黙って、これをごらん下さい」
 密使油が、包を派手にひろげると、中から鼠色の大きな動物が現れた。顔を見ると、やはり鼠に似ていた。
「ほう、これは大きな鼠じゃな」
「金博士。鼠ではございません。これはカンガルーの燻製でございます」
「カンガルーの燻製?」
 博士は、目を丸くして、両手を意味なく、ぱしんぱしんと叩いた。
「さようです。カンガルーです。これは只今醤主席の隠れ……あ、むにゃむにゃ、ソノ、特別特製でございます」
「特製はわかったが、むにゃむにゃというところがよく聞えなかったし、一体これは、どこの産じゃ」
「はあ、それは御想像に委せるといたしまして、とにかく醤主席は、かような珍味を博士に伝達して、その代り、博士におねだりを…

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