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沈没男
ちんぼつおとこ |
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作品ID | 3359 |
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著者 | 海野 十三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「海野十三全集 第10巻 宇宙戦隊」 三一書房 1991(平成3)年5月31日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | 小林繁雄、門田裕志 |
公開 / 更新 | 2005-12-21 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 9 ページ(500字/頁で計算) |
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(×月×日、スカパフロー発)
余は本日正午、無事ロイヤル・オーク号に乗艦せるをもって、御安心あれ。
余は、どうせ乗艦するなら、いきのいい海戦を見物したいものと思い、英国海軍省に対し、ドーヴァ、ダンジネル、ハリッチの三根拠地のいずれかにて、英艦に乗込みたき旨要請したのであるが、それは彼の容れるところとならず、わざわざ北方スコットランドのそのまた極北のはなれ小島であるオークニー群島へ送りこまれたのは、甚だ心外であった。このスカパフロー湾は、相手国たる独国の海軍根拠地ウィルヘルムスハーフェンを去ること実に五百六十哩の遠隔の地にあり、独国軍艦にお目にかかるのには、外野席以上の遠方の地点で、これほど縁どおいところはない。
余は、いささか憤慨して、軍港副官にどなり込んだのであるが、彼はむしろ意外だという顔つきで、余のためにこれほど、生命の危険なき安全なる軍港をえらび与えたのに、なにが気に入らぬかといい、四分の一世紀前の第一次欧州大戦のとき、ここが如何に安全であったかという歴史について、諄々説明があった。あのときには、しばしば英国全艦隊がこの港内に集結して鋭気を養っていたそうで、すでに試験ずみの安全港であるそうな。
余が乗艦したロイヤル・オーク号は、現在このスカパフロー碇泊中の軍艦中で一番でかい軍艦であって、二万九千百五十トンの主力艦であり、速力は二十二ノット、主砲としては十五吋砲を八門、副砲六吋十二門、高角砲四吋八門、魚雷発射管は二十一吋四門という聞くからに頼母しい性能と装備とを有して居り、ことに高角砲分隊の技術については、英海軍中第一の射撃命中賞を有しているとかの噂も聞いて居り、さてさて素晴らしい軍艦に乗せてもらったものだと喜んでいる次第である。現に只今も、独機八機現わるという想定のもとに、どすんどすんと空砲をはなって、猛練習であるが、その凄い砲声を原稿に托して送れないのが甚だ残念だ。これより余は艦長にインタビューすることになっているので、ロイヤル・オーク号乗艦第一報をこれにて終る。
(×月×日、スカパフロー発)
余は今、純毛純綿のベッドに横わりながら、昨日に引続き、スカパフロー発の第二報の原稿を書いているところである。寝ていては、報告が書きにくいので、起きようかと思うが、すぐサラ・ベルナールのような顔した看護婦が来て、上から押さえるので、やりきれない。もっとも余は、すっかり風邪をひいて、かくの如く純毛純綿の中にくるまって宝石のような暮しをして居れど、頭はビンビン、涙と洟とが一緒に出るし、悪寒発熱でガタガタふるえている始末、お察しあれ――といったのでは、よく分らないかもしれないが、早くいえば、余は只今、ロイヤル・オーク号上に居るのではなく、スカパフロー軍港附属の地下病院の一室に横わっているのである。
余は、乗艦後二十四時間もたたないのに、こんな病院に横わろ…