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石竹
せきちく |
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作品ID | 3388 |
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著者 | 薄田 泣菫 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「泣菫随筆」 冨山房百科文庫、冨山房 1993(平成5)年4月24日 |
入力者 | 本山智子 |
校正者 | 林幸雄 |
公開 / 更新 | 2001-07-06 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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この頃咲く花に石竹があります。照り続きで、どんなに乾いた磧にも、山道にも、平気で咲いてゐるのはこの花です。茎が折れると、折れたままにその次の節からまた姿勢を持ちなほして、伸びてゆくのはこの花です。細くて、きやしやで、日盛りのあるかないかの風にも、しなしなと揺れるほどの草ですが、針金のやうな強い神経をもつてゐて、多くの草花がへとへとに萎びかかつてゐる灼熱の真つ昼間を、瞬きもせず澄みきつた眼を開いて、太陽を見つめてゐるのはこの花です。茎を折つても、水気ひとつ出るではなし、線香のやうに乾いた髄を通して、生命が呼吸してゐるのはこの花です。砂の夢。灼けつく石の夢。そしてまたどんな貧しい土地にも、根をおろして伸びてゆく不思議な「生命」の石竹色の夢。