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樹木とその葉
じゅもくとそのは |
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作品ID | 3409 |
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副題 | 19 なまけ者と雨 19 なまけものとあめ |
著者 | 若山 牧水 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「若山牧水全集 第七卷」 雄鷄社 1958(昭和33)年11月30日 |
入力者 | 柴武志 |
校正者 | 林幸雄 |
公開 / 更新 | 2001-09-07 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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降るか照るか、私は曇日を最も嫌ふ。どんよりと曇つて居られると、頭は重く、手足はだるく眼すらはつきりとあけてゐられない樣な欝陶しさを感じがちだ。無論爲事は手につかず、さればと云つてなまけてゐるにも息苦しい。
それが靜かに四邊を濡らして降り出して來た雨を見ると、漸く手足もそれ/″\の場所に歸つた樣に身がしまつて來る。
机に向ふもいゝし、寢ころんで新聞を繰りひろげるもよい。何にせよ、安心して事に當られる。
雨を好むこゝろは確に無爲を愛するこゝろである。爲事の上に心の上に、何か企てのある時は多く雨を忌んで晴を喜ぶ。
すべての企てに疲れたやうな心にはまつたく雨がなつかしい。一つ/\降つて來るのを仰いでゐると、いつか心はおだやかに凪いでゆく。怠けてゐるにも安心して怠けてゐられるのをおもふ。
雨はよく季節を教へる。だから季節のかはり目ごろの雨が心にとまる。梅のころ、若葉のころ、または冬のはじめの時雨など。
梅の花のつぼみの綻びそむるころ、消え殘りの雪のうへに降る強降のあたゝかい雨がある。櫻の花の散りすぎたころの草木の上に、庭石のうへに、またはわが家の屋根、うち渡す屋並の屋根に、列を亂さず降り入つてゐる雨の明るさはまことに好ましいものである。しやあ/\と降るもよく、ひつそりと草木の葉末に露を宿して降るもよい。
わが庭の竹のはやしの淺けれど降る雨見れば春は來にけり
しみじみとけふ降る雨はきさらぎの春のはじめの雨にあらずや
窓さきの暗くなりたるきさらぎの強降雨を見てなまけをり
門出づと傘ひらきつつ大雨の音しげきなかに梅の花見つ
ぬかるみの道に立ち出で大雨に傘かたむけて梅の花見つ
わがこころ澄みてすがすがし三月のこの大雨のなかを歩みつつ
しみじみと聞けば聞ゆるこほろぎは時雨るる庭に鳴きてをるなり
こほろぎの今朝鳴く聞けば時雨降る庭の落葉の色ぞおもはる
家の窓ただひとところあけおきてけふの時雨にもの讀み始む
障子さし電燈ともしこの朝を部屋にこもればよき時雨かな
など、春の初めの雨と時雨とを歌つたものは私に多くあるが、大好きの若葉の雨をばどうしたものかあまり詠んでゐない。僅かに、
うす日さす梅雨の晴間に鳴く蟲の澄みぬる聲は庭に起れり
雨雲のひくくわたりて庭さきの草むら青み夏むしの鳴く
などを覺えてゐるのみである。
夕立をば二三首歌つてゐる。
飯かしぐゆふべの煙庭に這ひてあきらけき夏の雨は降るなり
はちはちと降りはじけつつ荒庭の穗草がうへに雨は降るなり
俄雨降りしくところ庭草の高きみじかき伏しみだれたり
澁柿のくろみしげれるひともとに瀧なして降る夕立の雨
一日のうちでは朝がいゝ。朝の雨が一番心に浸む。眞直ぐに降つてゐる一すぢごとの明るさのくつきりと眼にうつるは朝の雨である。
眺むるもよいが、聴き入る雨の音もわるくない。ことに夜なかにフツと眼のさめた時、端なく…