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飛行機から墜ちるまで
ひこうきからおちるまで
作品ID341
著者吉行 エイスケ
文字遣い新字新仮名
底本 「吉行エイスケ作品集」 文園社
1997(平成9)年7月10日
入力者霊鷲類子、宮脇叔恵
校正者大野晋
公開 / 更新2000-06-07 / 2014-09-17
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 新婚者と、女角力になったタルタン、彼女のために殺されてしまった花聟、歓楽の夜の海を水自転車で彼にあたえた、妖婦タルタンの愚かな行動、水底深く死んだ花聟のダンデズム、影は水に映る。
 水自転車、香港、そこで彼女は仲居をしていた。
 日本へ帰ると踊りの名手、華麗な売笑婦、タルタン。

 ここは門司市、東川端の卑猥な街、カアルトン・バアの青い給仕人の花風病の体温、ロシア女の新らしい技術の中で無頼漢の唄う流行歌。
 落つきを失った新聞記者のYの見たマダム・ハヤミの地平線、吊ランプ下げた海峡の船が下関に着くと、僕はサンヨウ・ホテルの踊場にマダム・ハヤミを迎える。露台でハヤミは僕を賞讃して、愛を誓った
 のだが、翌日、ホテルの僕の部屋、ノックするとYが飛込んできた。
 ハヤミのオオケストラ、彼の人糞。
 ――君! マダム・ハヤミの奴、大理石の経帷子きこんで昨夜晩く神戸へ行ったぞ、おい、君。女の肉体讃美はよさないか。
 ――おい。×酒よこせ。僕のタンゴ踊、本場仕込みなのでハヤミは腹痛を起したのだ。Y、僕は粋な香港に未練があるんだ。
 空しく、僕は欧洲行の船を棄てて、マダム・ハヤミを追って神戸行急行列車に乗り込んだ。
 ――おい、君。マダム・ハヤミ、俺も恋していた。彼女の×××送ってよこせ。
 ――NACH KOBES ×××万歳!
 下関駅を列車は離れた。Yが汚れたハンカチを振っている。
 数時間後、僕は岡山で下車すると、巡業中の歌劇団のポスターを横眼で見ながら、車を硝子張りの、「金髪バー」の前でとめて、酒杯の中に沈んで行った。すると、肥満した女主人が僕に惚れて煩悶しだした。
 頭のよくない調合人は、混合酒の控帳めくっている。××開始、ウェートレスの英国の少女、メリーをからかってしたたか膝を折られ泣面をしている男。だが、メリーは僕を見ると恋愛相談所[#「恋愛相談所」は枠囲み]めがけて夢中に走り出した。
 ――いらっしゃい。妾の主人は、非度いラヴ・レタの蛇なのです。恋愛過度、チタでレオ・トルストイに小説を書く方法を三万ルーブルも仕払って教ったのですが、いまの世の中で何んの役に立つものですか………。
 壁にはルノアールの偽もの蜿蜒の画がかかっていた。
 しかし僕は内緒で、片隅の赤髪の女に色眼をつかった。彼女は巨大で腿のあたりは猶太女の輪廓をもって、皮膚は荒れて赤らんで堅固な体躯をしていた。
 ――君の名は? と、僕が色欲のダリアに向って聞いた。
 ――妾、貴男の情婦、夜のボップよ。
 すると忽ち女は死物狂い、僕に倒れかかった。
 僕とボップ、裏街の夜、アアク燈、柳暗花明の巷を駈け抜けると、古寺院の境内、数時間、僕はだまって経過した。
 ――ロップ、一時は駄じゃれで君をメキシコ湾だと云ったが、僕の純情知ってくれたか。
 辻自動車が疾走する、満月、天主閣、車が湖畔を疾走するとき…

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