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華々しき一族
はなばなしきいちぞく |
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作品ID | 3411 |
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著者 | 森本 薫 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「現代日本文學大系 83 森本薫・木下順二・田中千禾夫・飯沢匡集」 筑摩書房 1970(昭和45)年4月5日 |
初出 | 「劇作」1935(昭和10)年7月 |
入力者 | 伊藤時也 |
校正者 | 松永正敏 |
公開 / 更新 | 2002-03-11 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 87 ページ(500字/頁で計算) |
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人
鉄風
諏訪
昌允
美[#挿絵]
未納
須貝
一
川に臨んだコテージ風の住居の一部分。川を見下ろし、二階への階段をもつ。
六月の末、その晴れた一日、午後四時過ぎ。須貝、未納、二人共軽装。
須貝 (椅子に掛けて、ラケットをいじくりながら)兎に角、一遍でいい、陽に向って勝負をしたまえ、それから、あなたの打ったような球を留めてみ給え、それからの話だ。
未納 だって、勝とうと思ったら、誰だって……難しい球打つわよ。
須貝 僕があんなボールを打てないと思ったら間違いだぜ。わざっと打たないだけの話さ。
未納 (窓の傍で)御覧なさい。須貝さん。
須貝 何が見えます。
未納 そんなところで、何か言ってないでさァ。
須貝 言い給え。
未納 用心深いのね。
須貝 猫がいる! それとも犬か?
未納 お洗濯の連中よ、また引っ張られてくらしい。
須貝 珍らしくもない。
未納 珍らしいものなんて、言ってやしないわ。
須貝 一晩睡ると、また、バケツを提げて集って来るよ、きっと。
未納 ああ言うのは、仕方がないのね。
須貝 連れてく方でも持てあましてるんだろう。
未納 直ぐ還して貰えるもんで、馴れっこになってるんだわ。
須貝 尤も、有り余ってる水だから、洗濯もしてみたくなるか。どうだろう、あの川、泳げるかしら。
未納 泳ぐつもり? 須貝さん。
須貝 風致保存区域だって、泳ぐぶんには差支えないだろうな。
未納 連れてかれてよ。構わない。
須貝 風致を害するか。
未納 洗濯どころじゃない。
須貝 近代的な景色でいいと思うがな。
未納 グロテスク……。
須貝 なに? はっきり聞こえなかった。
未納 暑いなあ、今日は……。
須貝 今のをもう一度言ってほしいな。
未納 暑い……。
須貝 その前の奴さ。
未納 如何、もう、ワン・ゲエム。
須貝 まあ、止めとこう。うまく、誤魔化しやがった。
未納 折角の日曜日だのに……ぼんやりしてちゃ、つまんないわ。
須貝 あなたに、日曜日の意味があるのかい。何時だって日曜日じゃないか。
未納 負けるからね。そうでしょう。
須貝 言っとくさ、部屋ん中だからね。此の暑いのに……どうも、子供のお相手は……。
未納 子供じゃないわ。
須貝 慍らなくったっていいさ。
未納 昨日も約束したでしょう。
須貝 ああ、そうかそうか。思い出した。
未納 何時でも思い出すのね。憶えてなけりゃなんにもならないわ。
須貝 憶えた。今度から……。
未納 言った後からは、今度から……。それだから嫌い。
須貝 嫌いでもいい。
未納 ほんと?
須貝 なにが?
未納 出鱈目言ってないで、行きましょう。妾、もっともっと飛びまわりたい。
須貝 あのコオトじゃ、埃が立つだけですよ。人情から言っても謝りたいコオトだ。
未納 少し堅めるといいんだわ。
須貝 堅めてもいいが……。
未納 撮影所の裏に、ローラ…