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一票の教訓
いっぴょうのきょうくん
作品ID3441
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十六巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日
初出「婦人公論」1946(昭和21)年6月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-10-20 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 日本の新しい出発にとって意義深い総選挙は、四月十日に行われ、十五日までには全国の成果が知らされた。
 前もって数えられていた全国の有権者は三千九百八万九百九十人といわれ、そのうち婦人有権者は二千九十一万七千五百九十三人とされていた。永年の戦争で、夥しい男子を家庭から失っている日本の姿がここに示されていたわけである。
 婦人の参政権が認められてから、総選挙まで、私たちは幾度、日本の婦人は政治に無関心だという批評をきいて来ただろう。また、何度、どうせ棄権さ、という言葉をきかされて来たであろう。選挙準備の期間を通じて、新聞が報じたのは、選挙に対する一般の気のりうす、低調ということであった。
 ところが、いよいよ結果が検べられてみると、先ず棄権率が非常にすくなかったことがわかった。全国平均僅か二割七分七厘の棄権しかなかった。そして、意外に多勢の婦人立候補者が当選した。婦人立候補者の四割八分ほどは当選して、二十八歳から六十六歳まで、三十九名の婦人代議士が、新しい明日に向って選び出されたのである。しかも、これらの婦人代議士の中には、それぞれの選挙区で最高点を得た人が五名もあった。棄権率のすくなかったこと、予想外に婦人に投票が集まったこと、この二つを世界が注目すべきこととした。
 同時にこの総選挙の結果は、日本が民主の国として再建設されてゆくことがいかに困難な事業であるかということをも、おおうところなく国際間に証明した。総選挙という方法は民主の方法であろうが、その方法を通じて反映された今日の日本の現実は、どんなに国内の保守の権力が根づよく、組織的で、日本が民主化して行こうとする進路をふさいでいるかという事実が、外人記者の観察にもはっきり語られたのである。総数四六四名の代議士が、各自所属している政党を眺めても、これは一目瞭然であろう。
自由党 一三六名 (婦人) 五名 計 一四一名
進歩党  八七名 (婦人) 六名    九三名
社会党  八四名 (婦人) 八名    九二名
協同党  一四名 (婦人) ナシ    一四名
共産党   四名 (婦人) 一名     五名
諸派   二九名 (婦人)一〇名    三九名
無所属  七一名 (婦人) 九名    八〇名
                総計 四六四名
 これらの新代議士の職業別一覧表は次のようである。
      自由  進歩  社会  協同  共産  諸派 無所属
社長重役 五七名 二九名  六名  三名   ― 一三名 一〇名
弁護士  一七名  九名 一九名   ―   ―  一名  三名
会社員   三名  三名  七名   ―   ―  一名  二名
医師    五名  一名   ―   ―   ―  三名  一名
農業   一四名 二一名  五名  六名   ―  三名  三名
役人    九名  …

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