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若人の要求
わこうどのようきゅう
作品ID3446
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十六巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日
初出「月刊労働文化」1946(昭和21)年9月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-10-20 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 此の間から、いろいろの職場で働いている若い人達の気持にふれる機会を持ちました。
 一番痛切に感じた事は、今日働く婦人達がどんなに勉強したがっているかということでした。東京では麹町神田辺のいろいろの職場に働いている婦人達が集って学校を開きました。全体で七百人も申込があって、毎土曜日職場がひけた後で一時から夕方まで集って、歴史、生活科学、文化の話をききました。一ヵ月が終った時、これ等の人々は、これだけ勉強してみると、ますます知りたいことが多くなったのです。秋からでも今度は、経済、法律の話もきいて勉強したいという希望が出て来ました。この学校は働いている若い女性達が、全く自分で計画して、運営して、経済的にも充分次期計画を実行できるだけの余力を持って第一回を終りました。
 各大学で自由大学や、市民大学を開いていて、新しい日本の文化を民主的な形で、市民の生活の中にもたらそうとしています。こういう所へいってみても、若い婦人の姿をかならず見受けます。
 若い人々は、封建的な日本が民主的な日本に生れ変わろうとするならば、本当に民主的ということは、どういうことなのか、そういうことも知って自分達の明日を明るくしっかりと打開いてゆきたいという熱心な希望を持っています。本当にこれまで十何年かの間日本の私達は何と本当のことを知らされずに来たでしょう。自分達の愛する者の生命にかかわる戦争の真実の姿さえも知らず、国際裁判の記録ではじめて自分達の辿って来た運命を発見する始末です。ですから、働く婦人が、たった一人の実際の要求――例えば、同一労働に対する同一賃銀という誰にとっても切実な要求――を真から解決しようとすれば、結局社会における生産と婦人の歴史的な関係、将来の展望をしらなくては心もとないという心持になるのは、自然でしょう。そういう勉強をしたい若い女性達はこの頃、学校を開いたり、自分達の職場の中で、集会を組織したり音楽や演劇、文学の研究会や同好会をこしらえています。
 労働組合というものは、働く人の生活の全面にわたる幸福を、たかめるためにあるのですから、待遇改善の要求ばかり出すだけでなく、文化部の仕事としては面白い芝居を団体で見たり、良い映画をもって来たり、自分達の仲間で音楽会を開いたり、雑誌を出したりしてゆきましょう。民主的な労働組合の発達した国では、それぞれ産別の組合が立派なクラブの建物を持っていて、スケートリンクや、競技場、プール等持っているところさえあります。
 この働く人々の文化への要求というものはその人々の働きがその社会で、どういう扱いをうけているかということによって非常に変化いたします。働く人の労働力が、その人々を傭っている人、つまり企業家を富ます目的でだけ利用されている社会では働く人の文化の要求は文化的な面で、金儲けをする企業家の餌食となってゆくばかりです。そんな社会では…

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