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浦和充子の事件に関して
うらわみつこのじけんにかんして
作品ID3469
副題参議院法務委員会での証人としての発言
さんぎいんほうむいいんかいでのしょうにんとしてのはつげん
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十六巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日
初出参議院法務委員会での証人発言、1948(昭和23)年12月16日、「平和のまもり」および「新日本文学」、1949(昭和24)年3月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-10-26 / 2014-09-18
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私も頂きました資料をよんで感じたことですけれども、やっぱり主人公である浦和充子が、子供を一人でなく三人までも殺したという気持が、このプリントに書かれてある範囲ではわからないのです。あれを読みますと、お魚に毒を入れて煮て、それを子供にわけて食べさせて、それをたべて自分も死のうと思ったということです。
 そうすると小さい子と自分とが半分ずつわけて食べようと思っていたお魚の一切を、子供の一人が食べたがったものだからその子にやったというんですね。自分の分まで皆食べさしちゃった。何か人間の気持、親の気持からいって、自分が一緒に死のうと思っている子供に、毒を入れて煮た魚を、お母さん欲しい、お母さん欲しいといったから、さあおあがりといって自分の分まで余計にその子供に食べさせるということは、私どもにはわからない気持です。まあ普通の親でしたら自分は身体が大きいんだし、親だし、だから子供の始末をしてやろうとしたにせよ、半分にしろ欲しがったから食べさしちまうということは、非常に疑問です。つまりこの事件のファクター、素因のプロパーとして特殊の事情として、普通ではわからない心理が充子という人の気持にあります。
 それから観察しているでしょう。こうやって見ていたら、顔を見ていたらだんだん黒くなってきた。そうして足を出したと、それだから苦しますと可愛想だから締め殺したと。
 だけれども、毒をくわした子供の顔を見ているうちに涙にかきくもるといえば通俗小説ですけれども、それは泣けてくるんです。それを冷静に見ている、作家か何かが冷酷な気持でリアリスティックな気持で見ていれば、その段階がわかるでしょうけれど。――もがき始めたので、はっとなって、とりのぼせたというのならわかるけれども、だんだん黒くなったと見ているのはどうもあまり沈着なんです。そういう心理もわかりません。
 それから私いま松岡さんのおっしゃったことで、女の人の具体的な感じかたを非常に面白く思ったんですけれども、私にもあのプリントで被告の身許引受人というのがわからないのです。あれにはただ身許引受人があったから執行猶予にしたとあります。身許引受人というものと、その充子さんという人との関係がわかっていないし、夫とその人との関係がわかっていません。ああいう生活過程をもっている女の人の場合には、ひとくちに身許引受人といってもいろいろのことが考えられるわけです。そういう点もプリントではわからない。
 そこで判事や検事は、事件を社会問題としての面で強調して、生活苦ということを主張なさったわけです。けれども、どなたかふれられたように本人は生活苦じゃないといっているんです。そうすれば、あの殺した動機というのは、率直に申しますとつまりやけっぱちになった、つらあてという感情が非常に強く支配したんじゃないかと思うんです。つまりお酒を飲んで悪口をいうとか、…

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