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太平洋雷撃戦隊
たいへいようらいげきせんたい
作品ID3516
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第3巻 深夜の市長」 三一書房
1988(昭和63)年6月30日
初出「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年5月
入力者tatsuki
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2005-12-23 / 2014-09-18
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   軍港を出た五潜水艦
   謎の航路はどこまで


「波のうねりが、だいぶ高くなって来ましたですな」
 先任将校は欄干につかまったまま、暗夜の海上をすかしてみました。
「うん。風が呻りだしたね」
 そういったのは、わが○号第八潜水艦の艦長清川大尉です。
 司令塔に並び合った二つの影は、それきり黙って、石像のように動こうともしません。今夜もまた、第十三潜水戦隊は大波の中を、もまれながら進んでいるのです。
 暗澹たる前方には、この戦隊の旗艦第七潜水艦が、同じように灯火を消して前進しているはずです。又、後には、第九、十、十一の三艦が、これも同じような難航をつづけているはずです。五分おきにコツコツと水中信号器が鳴って、おたがいが航路から外れることのないように、警戒をしあっています。
 この五隻の○号潜水艦が、横須賀軍港を出たのは、桜の蕾がほころびそうな昭和○年四月初めでありました。それからこっちへ、もう一月ちかい日数がたちました。その間、どこの軍港にも入らないし、島影らしいものも見かけなかったのでした。
 もっとも水面をこうやって航行するのは、きまって夜分だけです。昼間は必ず水中深く潜航を続けることになっていましたので、明るい水上の風景を見ることも出来ず、水兵たちはまるで水中の土竜といったような生活をつづけていたわけでした。
 とにかくこんなに永い間、どこにも寄らないで、一生懸命走っているということは、今までの演習では、あまり類のないことでした。
「どうも、本艦はどの辺を航海しているのか判らんねえ」
 第八潜水艦の兵員室で、シャツを繕っていた水兵の一人がいいました。
「もう二十五日もたつのに、どこの根拠地へも着かないんだからね」
 それにこたえた水兵が、手紙を書く手をちょっと休めて、あたりの戦友をグルッと見廻しました。グルッと見廻すといったって、まるで樽の中のような兵員室です。右も左も、足許を見ても天井を仰いでも、すぐ手の届きそうなところに大小のパイプが、まるで魚の腸を開いたように、あらゆる方向に匍い並んでいます。
「第一不思議なのは本艦の方向だよ。或時は東南へ走っているかと思うと、或時は又真東へ艦首を向けている」
「そうだ。俺は昨夜、オリオン星座を見たが、こりゃひょっとすると、飛んでもない面白いところへ出るぞと思ったよ」
「面白いところへ出るって、どこかい。おい、いえよ」
「うふ。その面白いところというのはな」
「うん」
「それは……」
 と、先をいおうとしたときに、室内に取付けてある伝声管が突然ヒューッと鳴り出しました。丁度その側に「猿飛佐助」を夢中で読んでいた三等兵曹が、あわてて立ち上ると、パイプを耳にあてて聞きました。何だか向うから怒鳴っている声が洩れて聞えます。
「はいッ、判りましたッ」
 パイプをかけて、一同の方に向いた兵曹は厳格な顔付で叫びました。…

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