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世界の一環としての日本
せかいのいっかんとしてのにほん |
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作品ID | 3601 |
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著者 | 戸坂 潤 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「戸坂潤全集 第五巻」 勁草書房 1967(昭和42)年2月25日 |
入力者 | 矢野正人 |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2013-07-20 / 2014-09-16 |
長さの目安 | 約 434 ページ(500字/頁で計算) |
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序
ここに編纂したものは、必ずしも研究論文ではない。と共に一時的な時評でもない。私は、時代の評論とでも云うべきだと考える。大体から云うと、ごく啓蒙的なものであるから、無用な先入見にわずらわされない読者には、読みよいものかと思われる。
日本は世界的な角度から見られねばならぬ、というのが私の一貫する態度だ。これは、日本は民衆の立場から見られねばならぬということに基くのである。ここに私が民衆と呼ぶのは、支配者が考えるあの民衆のことではなくて、自主的に自分の生活を防衛して行こうとする民主的な大衆のことだ。
すでに一旦発表されたものに相当手を加えたものであるが、特に日本型ファシズムに就いての私の予備概念には多少の変化があるのだが、その点に関係する部分を徹底的に書き改める都合がつかなかったのは残念である。
この本と直接関係のある拙著を三つ挙げておこう。第一は『日本イデオロギー論』(白揚社)、之は大部分理論的なものである。第二は『現代日本の思想対立』(今日の問題社)、之は時評集である。第三は『思想と風俗』(三笠書房)で、日本の教育と宗教との風俗描写を含んでいる。そして本書は第一と第二の中間に立つものだ。
一九三七・三・一五
東京
戸坂潤
[#改ページ]
第一部 日本の社会現象
1 官公吏の社会的地位
かつて農林省の小作官会議に於て、この頃しきりに小作争議に内務官吏が乗り出す傾向があるというので、非難が出たそうだが、其の後また、労働争議に官憲がのり出して、純正日本主義や皇道経済の名によって、労資協調的労働組合の組織を企てたり、争議の一種の指導に当ったりしたというので、労資(?)の両陣営から非難を招くに至ったのは、新聞が報道する処である。
社会大衆党は之に対して抗議書を発表して曰く、「愛知県警察部は本年夏頃より県下の労働組合に対して日本主義に転向を強要し、特に日本製陶労働組合同盟に対し執拗に分裂を策しつつあり。又豊川鉄道争議に介在して、必要以上に争議を悪化せしめた事実あり。かかる現象はひとり愛知県のみでなく、青森県の産業組合党設立準備に官吏の関与せるものあり、新潟県下において全農支部に対し県当局より日本主義転向を勧告せる事実がある。これ等は一部官僚がその政治的地盤を築かんがための陰謀であり、又わが国無産階級運動の正常にして健全なる発展を阻害し我等の陣営をことさらに攪乱せんとするものである」云々。
愛知県下の多数の私鉄の争議に於て、県の一特高主任が争議団側の宣言や要求書を起草し、争議解決後新設された従業員組合の役員選出を行い、従業員に向かって純正日本主義による労働組合の公認とか、皇道経済に立脚せる労資共同委員会の設置とかいう、妙な「政治的要求」(?)をかかげろ、と演説したというのが、問題になった緒口である。
内務省では云うまでもなく…