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社会時評
しゃかいじひょう |
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作品ID | 3603 |
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著者 | 戸坂 潤 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「戸坂潤全集別巻」 勁草書房 1979(昭和54)年11月20日 |
初出 | 「文藝春秋」1933(昭和8年)年6月~1937(昭和12)年5月 |
入力者 | 矢野正人 |
校正者 | Juki |
公開 / 更新 | 2009-06-02 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 394 ページ(500字/頁で計算) |
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目次
思想問題恐怖症
自由主義の悲劇面
転向万歳
倫理化時代
減刑運動の効果
世人の顰蹙
林檎が起した波紋
小学校校長のために
博士ダンピングへ
荒木陸相の流感以後
スポーツマンシップとマネージャーシップ
失望したハチ公
武部学長・投書・メリケン
農村問題・寄付行為其他
三位一体の改組その他
罷業不安時代
パンフレット事件及び風害対策
高等警察及び冷害対策
試験地獄礼讃
免職教授列伝
ギャング狩り
膨脹するわが日本
大学・官吏・警察
八大政綱の弁護
[#改丁]
思想問題恐怖症
一、満州サービスガール
満州国が独立したのを一等喜んだものの内には、今年の大学専門学校卒業生達を数えなければならぬ。何しろ大口二百名の満州国官吏を採用するというので、文部省へだったか又は直接に各大学専門学校へだったか、(そこの区別は一寸ゴタゴタがあったようだが)、人物・身体・学業三拍子揃った粒よりの「有為な」青年の推薦方を依頼して来たのである。官公立と私立とから平等に採用して欲しいというような、先の先まで考えた就職者側の注文もあった。私は当時、帝大卒業生などは人物・身体・の二条件に於ては遠く拓植大学卒業生などに及ばないから、まず官立一私立二ぐらいの割合が公平だろうと思っていたのだが。
さて有為な青年は仲々多いものと見えて、学校当局の折紙づきの卒業生が二千名も受験したそうである。受験場は東京・京都・仙台・福岡・京城の五カ処だから、まずオール日本青年代表の選定という慨がないでもない。――処が有為な青年は実の処、又案外少ないものらしく、わずかに十七名(いずれも帝大出身)だけが選定されたに過ぎなかったのである。あまり出鱈目だというのでわざわざ満州国にまで押し渡って先方の当局にねじ込んだり、内地の当局に抗議を申し込んだりした青年もいたそうである。併し何と云っても、有為な青年がとにかく十七人しかいなかったのだとすれば、怒っても仕ようがないのではないかと私は思っている。
満州国官吏は無論男の場合であるが、それが女の場合になると、満州サービスガールがある。今年の一月に親切で有名な東京飯田橋職業紹介所の鳴物入りの宣伝で、之は千人程の中から選ばれた三十二人の代表的インテリガールが、「帝国ホテルよりも大きな」ハルピンのアジア・ホテルのサービスガールとなって送られて行った。この有為な女子青年達からなる「挺身隊」は無論、東洋の到る処に進出して国威を発揚している例の種の娘子軍などではない筈であった。当人達や父兄達は云うまでもなく、直接関係のない吾々世間人もそう信じていたのである。何しろ紹介者が歴とした例の有名な飯田橋の職業紹介所であるし、先方は外でもない満州国の旅館だというのだから。それに満州国当局の後援のあるホテルであったとしたなら、誠に肩身の広い申し分のない就職口と云わざるを得ない。
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