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処女作より結婚まで
しょじょさくよりけっこんまで
作品ID3735
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「婦人倶楽部」1924(大正13)年1月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-11-12 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 人並みの苦心をすることは決して苦心とはいえないでしょう。というのは、成功と失敗とに拘わらず、努力に就ての或る標準が予想されていて、その標準以上の努力をした場合でなければ、苦心といえないものだと思うからで御座います。ある一定の効果を挙げる為に当然支払わねばならぬというだけのものを支払った事は、それは敢て苦心という事が出来ないものだと思われます。
 例えばキリストを主題とした小説を書こうとしますと、それは結果の上には何も現わさない場合でも、準備として、その土地、年代、土地の風俗、特別に行う祭事などを研究しなければなりません。けれども、その位の努力は誰でも払うものだときまっているとすれば、それは取立て苦心とは云えないものだと思います。その上、苦心などという事は、全く主観的のものであって、生れつき文芸好きな私自身は、創作には準備の場合にも推敲の場合にも、苦しいどころか愉快を感じて居りますので、其意味に於て私は、特別に苦心をしたという経験がないので御座います。
 一番嬉しかったというのは、矢張り、初めて自分の書いたものが活字になった時で作の善い悪いは別として、理由のない嬉しさを感じました。それはまだお茶の水高等女学校に在学中、何の見当もなく、一生懸命に書きました処女作「貧しき人々の群」を坪内逍遙博士に見ていただきました処、意外にも非常なお推奨を受けまして博士のお世話で中央公論に発表されたので、幸い有難い評判をいただきました。お茶の水の卒業後暫く目白の女子大学に学び、先年父の外遊に随って渡米、コロムビア大学に留まって社会学と英文学研究中、病気に罹り中途で退きましたが、その時、荒木と結婚することになり、大正九年に帰朝いたしまして、その後は家事のひまひまに筆にいそしんで居ります。
〔一九二四年一月〕



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