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飛行機の下の村
ひこうきのしたのむら
作品ID3898
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「文学新聞」日本プロレタリア作家同盟機関紙、1931(昭和6)年10月10日創刊号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-11-27 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 旧佐倉街道を横に切れると習志野に連る一帯の大雑木林だ。赤土の開墾道を多勢の男連が出てシャベルやスコップで道路工事をやっている。×村から野菜を○○へ運び出すのに、道はここ一つだ。それを軍馬が壊すので、村民がしなければならない。爺さんまで出て腰の煙草入を振り振りモッコの片棒担いでいる。
 附近に陸軍飛行機学校、機関銃隊、騎兵連隊、重砲隊などがある。開墾部落はその間に散在しているのだ。
 南京豆と胡麻畑の奥に、小さい藁葺屋根の家が見えた。われわれ一行三人が、前庭に入って行くと、
「よう!」
 低い窓からこっちを見て勢のいい声をかけたのは主人××君だ。土間で手拭をかぶって働いてたお神さんが、
「さ、おあがりな」
 春から懇意の△△君が作家同盟から今度文学新聞が発行されること、そこへ記事や写真を載せたくてやって来たことなどを話した。
   ×
 洗いざらしだが、さっぱりした半股引に袖なしの××君は、色のいい茄子の漬物をドッサリ盛った小鉢へ向って筵の上へ胡坐を掻き、凝っときいている。やがて静かな、明晰な口調で、
「どうだ、今夜居られるかね?」
と訊いた。
「僕らはいいです」
「それじゃ結構だ。みんな集めるのは夜の方がいい」
 ××君は元からプロレタリア文化運動の基礎は工場・農村の中へ置かれなければならないと実践から主張して来たんだ。
 この部落十七軒が団結して独占地主××と闘争をはじめたのは昨日今日のことではない。旧労農党時代からだ。近隣の三部落も全農支部を組織して勇敢に闘争している。中でもこの部落は四・一六と二・一六とに犠牲者を出した。組合員は地主との闘争の焦点をハッキリ土地問題において勇敢にやっているのだ。部落の小作料はもう五年間も未納だ。
   ×
 この一見何の奇もない四十男の××君が、このためには口で云えない努力をつづけて来ているのだ。
 途中で見て来た道普請のことが出た。
「組合員は反対なんだ。強制賦役反対、弁当代を出せろと云っているんです」
 やがて、美味いウドンの昼飯をすませ、山芋掘の鍬をかついだ××君を先頭に家を出た。栗鼠が風の如く杉の梢を、枝から枝へ飛び移って行く。栗の青いイガが草の中へ落ちている×××老人の家で夜まで遊ぼうというわけだ。四・一六の時、×××老人は婆さまもろとも引っぱられたが、六十日ブタ箱にたたきこまれている間一言も物を云わなかったというんで、部落の一つ話になっている。
「看守が来ると、おーい、年とって目が見えんからお前見とくろっちゃ、毎日虱とっとった」
 ×××老人は、皺だらけの顔で言葉少にその時のことを話し、愉快そうにハッハッと笑った。
 まわりの手入れの行届いた畑には、薯、菜、大根、黍、陸稲なんかが育ってる。部落組合員は、経済恐慌と闘争の激化につれて「闘いのための生産へ!」というスローガンで市場へ売り出す白菜や南京豆の代りに、…

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