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その頃
そのころ
作品ID3916
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「中央公論」1935(昭和10)年10月五十周年記念号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-12-03 / 2014-09-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 門柱の左には麻田駒之助と標札が出ていて、門内右手の粗末な木造洋館がその時分(大正五年)中央公論社の編輯局になっていた。受付で待っていると、びっくりするばかりの赭ら顔に髪の毛をもしゃとし、眼付が足柄山の金時のような感じを与える男の人が、坪内先生の手紙を片手に握って速足に出て来た。これが瀧田樗蔭氏であった。白絣に夏羽織の裾をゆすって二階へ上った。私が全く自然発生的に書いた小説「貧しき人々の群」の原稿はテーブルの上でこの精悍に丸い人の丸い指先でめくられた。やがて瀧田さんがこれからずっと文学をやって行くつもりですかと訊いた。そりゃ勿論そうだわ。と私は女学生の言葉でふっきるように云った。当時私は其以外に自身のはりつめた感情をあらわす云いようを知らないのであった。
〔一九三五年十月〕



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