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身ぶりならぬ慰めを
みぶりならぬなぐさめを
作品ID3943
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「輝ク」1937(昭和12)年11月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-12-09 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




『輝ク』の慰問号を拝見して感じたことの第一は、人を慰める、特に平常と異った事情にある前線の将士を真実に慰めるということは、実に、むずかしいということです。『輝ク』のこの号の共通な感情として、どっちかというと慰めるということの内容が少女小説的と云おうか、女の昔からの習慣的な或る身ごなしの面でだけとられている傾きがあります。ふだん其等の人々の書いていらっしゃる言葉づかいと、何かちがって受け身な言葉づかいで、妙に襷をかけて膝をついたり、旗をヒラヒラやって涙ぐむのが、慰めの定型のようでもある。岡本かの子さんは、近頃一貫してああいう感情表現をしていられるが、村や店先から出て行って砲火の下にいる、前線の兵士たちがあの文章をよんで何を感じ、何を理解し得るでしょうか。兵士たちは、ごく普通の市民の一人一人であり、なみの人間であり、而もそれらの何の奇もない人間が、避けがたき事情の下に万難を冒して自分の生涯を賭しているからこそ、私たちの心持は歴史の深刻な意義とともに深く動かされるのであると思います。ヒロイズムの自己陶酔は私たち女を愚劣にします。
 ああいうところで、ああいう生活をしている人々には、みんな家があり、故郷があり生業がある。
 具体的に今日の村の暮しの有様、都会の暮し向きの有様を書いたものは、きっと大きい慰めとなり、人間的な情緒をうるおすことでしょう。特に戦時ニュースで充満した新聞ではよめず、雑誌でも書かない、そういう日々の村や町の商売、家族の生活と感情が、誇張ない文章で数字なども出して書いたものをよむことは前線において切りはなされている現実の他の部分を補うに精神上役立つことが多いだろうと思います。
 人間に真の勇気を与える力、真の慰めとなる力、これは極めて現実に根おろしたものであると思います。
〔一九三七年十一月〕



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