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机の上のもの
つくえのうえのもの
作品ID3962
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「新潮」1939(昭和14)年12月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-12-12 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 机の上に年中おいて使っているいろんな細々とした品物は、きっとその人その人の好みや暮しかたをあらわしていて、面白いものなのだろうと思う。
 平凡でただゆったりしているのが便利な私の机の上にいつもあるのは、山羊の焼物の文鎮、紺色のこれも焼物の硯屏。それからそこいらの文房具屋にざらにあるガラスのペン皿。そのなかには青赤エンピツだの小鋏、万年筆、帳綴じの類が入っている。アテナ・インクの瓶がそのまんま置いてあって、そこへペン先をもって行っては書いているのだが、そのペン軸を従妹がくれたのは、もう何年前のことだったろう。私が悄気て鎌倉にいた従妹の家へふらりと行ったりした頃、貰ったものだ。
 やきものの山羊は父が昔くれたもの。嘗て柳行李のなかから、紺絣の着物や、目醒し時計と一緒くたに出て来たガラスのペン皿は、わったりしたくないと思ってつかっている。
 琉球のある女のひとがくれた一対の小さい岱赭色の土製の唐獅子が、紺色の硯屏の前においてある。この唐獅子は、その女のひととつき合のある幾軒もの家にあるのだろうと思うが、牡の方はその口をわんぐりと開いていることで見わけるのだそうだ。ところがこうやってしげしげその顔を眺めていると、豪魁そうに舌まで見せて口をかっと開いている牡の方が人のいい親爺に感じられ、却って口をつむんで傍にひかえている牝の表情に、ひとくせ籠ったものがある。じっと見ていると笑えて来る。
 やすくて生のいい花をうる店が近所にあったらどんなに嬉しいだろうと思っている。
〔一九三九年十二月〕



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