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![]() ごがつのそら |
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作品ID | 4177 |
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著者 | 宮本 百合子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「宮本百合子全集 第十八巻」 新日本出版社 1981(昭和56)年5月30日 |
初出 | 「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | 磐余彦 |
公開 / 更新 | 2004-04-28 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 12 ページ(500字/頁で計算) |
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一九二二年五月
或午後、机に向って居ると、私の心に、突然、或諧調のある言葉が、感情につれて湧き上った。
丁度、或なおしものの小説を始めようかとして居、巧く運ばないので苦しかったので、うれしく其を書きしるした。
後、折々、そう云う現象が起る。
純粋に云って、詩と云うもののカテゴリーに入るか、如何うか、兎に角私にとっては、斯様な形式で書く唯一のものだ――私の詩と云える。
段々、かたくなく文字が流れ出す快感を覚える。何処まで、形式、内容が発達して行くか、
私にとっては、頭のためにも、感情のためにも、よい余技を見出した。
五月一日
あらゆるものが、さっと芽ぐみ、
何と云う 春だ!
自分の心は、此二十四歳の女の心は
知らない憧憬に満ち、
息つき、きれぎれとなり
しきりに何処へか、飛ぼうとする。
一つ処に落付かず
ああ 木の芽。 陽の光。
苦しい迄に 胸はふくれて来る。
*
心が響に満ち 音律に顫えて来ると
詩の作法は知らぬ自分も、うたをうたいたく思う。
何と表したらよいか 此の心持
どう云うのだろう 斯う云う 優しい 寂しい、あこがれの心は。
小説を書く自分は、辛くなり、
原稿紙をかなぐりのけて 眼を動かす。
見出そうとするように
此心を、さながらに写す 言葉か、ものかを
見出そうとするように。
*
それは、あの人の詩はよい。
優雅だ。 実に驚くべき言葉のケンラン。
けれども。――
そうです。あの方のも、素敵ですね。
放胆なイマジネーション。ファンタジア アラ……
然し。――私の心は、どうしても満足しない。
とん とん、と、胸に轟くこの響が、
あれ等の裡に聴えましょうか。
迫り、泣かせ、圧倒するリズムが
あれから浸透して来ますか?
ああ、私の望むもの、私の愛すもの
其は、我裡からのみ湧き立って来るものだ。
静に燃え、忽ちぱっと[#挿絵]をあげ、
やがて ほのかに 四辺を照す。
*
新芽をふいた世界は
鋭角になり 緑になり
平面に延る人間の心を 擾乱する。
夜中の雨に じっとりと濡れ
膨らんだ細葉を 擡げ 巻き立ち
陽を吸う苔を見よ。音が聴えそうだ。
又は勁く、叢れ、さっと若葉を拡げた八つ手、
旺盛な精力の感、無意識に震える情慾の感じ。
電車の音、自動車の疾走
戸外は音響に充ち
少年は、頻りに口笛を吹く。
静謐な家の中 机に向い
自分は、我と我がひろき額、髪を撫でこする。
*
心に興が満ちた時
お前は、何でもするがよい。
絵を描け、強いタッチで、グレコのように、絵を描け。
歌も唱え、
美しきマイ、アイディールをきいて、泣くお前。
静かな月光が地に揺れ、
優しい魂が心を誘い 愛撫する時
愛やよろこびが、手足を動かさずには置かないだろう、
あこがれを追う手、
過ぎて行く影を追う足。
バクストは、そ…