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一九二三年冬
せんきゅうひゃくにじゅうさんねんふゆ
作品ID4191
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十八巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日
初出「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2004-05-04 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ○Aの教えかた(家庭のことで)
 ○夫妻の品行ということ、
 ○自分の子についての心持
 ○母のない子、母というものの大切さ。
 ○頼られるという人のたち、
 ○自分のうそ。それにつれて考えた
 ○人格の真の力の養い、
 ○西川文子氏の話
 ○伊藤朝子氏
 ○Aの「かまわない」
 ○自分とT先生との心持
 ◎敏感すぎる夫と妻
 ◎まつのケット
 ◎本野子爵夫人の父上にくれた陶器、
 ◎常磐木ばかりの庭はつまらない。


          ――○――

     Aの言葉の力

 ◎或ことについての自分の注意が一度うけ入れられると、一度でやめず、幾度も幾度も繰返し、しつこくその効果をためし、きらわれる。
「何々をこうしたらいいだろう」
「はい、これからそう致します」
「本当にそうした方がいい。何でもない一寸したことだもの。自分が働くに働きいい方がよい」
「――」
「ね、本当に、そうおしよ。いそがないが」
 きく方でうんざりしてしまう。
 ○今まで人に思うままのさしずや命令を与えられなかった分を、今しようとするが如く。
 私は寂しき微笑を洩す。

     志賀直哉氏のものをよみ乍ら

 自分達夫婦に、旅行と性慾の問題は密接な関係のあるものとして扱われない。どう云う訳か。例えば私が何処へか出かける。出かけたい、よい連がある。金がある。それですます。又Aが出かけるとしても、先で、彼が別な女と肉体的の関係を生じようなどとは思ったこともないし、殆ど考えたことさえない。それが私共に別々な旅行ということを単純にあつかわせる。
 私の心持では
 Aが、種々な女の美しさなどにほっこりしない品行方正さ、実は感受性の鈍さが――あるのを知って居る故
 Aが、そういう純潔さに自繋せられて居るという知識、私自身のうぬぼれ等、すべてがコムバインして一つの信用と云うものになって居る。
 どんな女の人と置いても大丈夫と云うのは、彼が、それを清らかに愉しみつき合い乍ら、なお堕しないと云うのではなく、女の前に出ると、先方が active でない限り、自分はコチンとして居るのを私がよく知って居るからだ。
 彼は私に対して、どう思う?
 あぶないとは思うらしい。欲情を私の側に認めず、男が独りの私に対して持つ欲情というものを随分思うらしい。自分の淋しさもあるだろう。私が彼を一人で出してやるより、彼が私を一人で出す方をいやがる。

     自分の子供というものについての心持

 自分が子供というものについて考えるのは、自分がそれを持つのを恐れるのは、自分やAが安心して親となれる人間でないという外に、林町の母達の心持にかなり影響を受けても居ると思う。母が向島の祖母と子供のことについて激しい感情を持ったのもよくわかる。

     十二月九日

 Jane Eyre をよみつつ。
 大瀧のひろ子、基、…

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