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無題(九)
むだい(きゅう)
作品ID4216
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十八巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日
初出「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2004-05-13 / 2014-09-18
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

○温室の石井を呼びつける、
 m 真中、右 石井(若い方 うなだれている)、左 石井
 草の工合をきいているが 妙にからんで
「昨日よそへ行きましたら、カーネーションがのでんですっかりよく育って居りましたよ さし木をしてねエ、あれは温室でなくても育つと見えますねえ」
石「ずっと野天で生えているのをさし木すれば育ちます、種生はどうも……」
 やがて
「奥さん、何かおこのみでこれを育てたいというような花がありましたら仰云って下さい」
「どうも 私どもは素人で一向わかりませんですが、主人がいろいろその方の専門家を知って居りますから……いつか博覧会の時でしたか 温室を専門にやった方で 今ではなかなかそちらの方のオーソリティーだという方を知っているのですが……石井さん、ききませんでしたか?」
「さア、承って居りませんですが」
「もし何でしたら その方にでも伺って見たら又 何とか……」
 自分 たまらなくなって
「オーソリティーの問題じゃない」という。

 m、きのう小声で「温室の石井ってのもインチキだね」という。
「何故?」
「だって、お前きっちり十二時に来るんだよ 一遍や二度ならだけれど……」
 m、金を惜しくなって来た。それを、そうスラリと云わずに
「温室のことで怒ったりしては 彼の意志に反する」とか、又このようなカラミでやる。
 つまり石井をことわったらしい。
○mが彼というとき、聞くものは体のどこかを突かれたような感じをうけ、いやで毒々しく感じた。英男とはまるで内容の違う彼 母流の彼(いやみな)を感じ、はずかしかった。
○その午後 バスケットに入れて 猫を貰って来た。
「幸福なところへ行くんだ」
 ところが、逃げ出し いくらまってもかえって来ない。
「困ったね」
キク「本当に、お話も出来ませんね」
 夜仕事をしていると「ハナレ」
「一寸お話がございますから」と来る。
「猫のことだがね、私の家には猫を飼わないよ、お前の家なら御勝手だが……」
「逃げちゃった」
「逃げたでいいならかまわないがね……」
「それから その机の上を片づけて、テーブルかけを出しておくれ」
 何故そのテーブルかけがいるのかわけがわからない。
「今徹夜する程いそがしいのだから、二三日してすっかりかたづけましょう」
 今机がいるのではないらしいから
「――私はもう行くよ」
「それなら尚問題ない」
「ああ、私が居なくなればいつも問題はないよ」

 アセモに粉をふらしている。女中二人
「私のくびも出来た」というと
「へえ、お前のような強情な人はアセモの方がおそれをなすと思うと そうでもないね」
「やっぱり 人間の皮がはってあると見えるねエ」
「象の皮でもはってあるかと思うと……」

○テーブルかけのことにしろ イジわるい というのは成程こういうのかと思う。全然目的がわからない。
○女中たち だから感…

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