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猿の顔
さるのかお
作品ID42163
著者寺田 寅彦
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第二巻」 岩波書店
1997(平成9)年1月9日
初出「文芸意匠」1933(昭和8)年4月
入力者Nana ohbe
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-03-12 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 映画「マルガ」で猿の親子連れの現われる場面がある。その猿の子供の方が親猿のよりもずっとよく人間に似ている。しかも、それは人間のうちでも老人の顔に似ている。そうして老翁よりはより多く老婆の顔に似ているのである。それで、人間が非常に長生きをしたらだんだん親猿に似て来るかと思って考えてみる。西洋の絵入雑誌などに時々現われる百歳以上の婆さんなどには実際かなりに親猿のような顔をしたのもあることはある。
 動物が年を取るほど高等になると仮定する。そうして一方ではまた、人間が年をとって後にだんだん猿の子供に似て来るとする。すると、もしかしたら、猿の方が人間よりも高等だということになりはしないか。
 反対に、猿の方が人間より劣等だとすると、猿も人間も年を取るほどだんだん劣等になるのだという事になりはしないか。
 これは顔だけから見た人猿優劣比較論であり、老若賢愚比較論である。
 これに似た比較論が世間では普通に行われている。財産の多寡で個人の価値を秤量するのが一つ。皮膚の色で人種の等級をきめようとするのが一つ。試験の成績やメンタルテストで人材登用のスケールをきめようとするのが一つ。経済関係の見地だけから社会制度を決定しようとするのもその一つであろう。
 これは考えものである。
(昭和八年四月『文芸意匠』)



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