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鬼火を追う武士
おにびをおうぶし
作品ID42269
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」 春陽文庫、春陽堂書店
1999(平成11)年12月20日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-09-25 / 2014-09-18
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 鶴岡城下の話であるが、某深更に一人の武士が田圃路を通っていると、焔のない火玉がふうわりと眼の前を通った。焔のない火玉は鬼火だと云う事を聞いていた武士は、興味半分に其の後を跟けて往った。
 火玉は人間の歩く位の速度でふうわりふうわりと飛んでいた。武士は其の時其の火玉を斬ってみたくなった。武士は足を早めて火玉に近づいて往った。と、火玉は物に驚いたように非常な速力で飛びだした。それと見て武士もどんどんと走って追っかけた。
 其のうちに火玉の前方に一軒の小さな農家が見えた。武士はそれを見て、人家があるなと思った時、火玉はいきなり其の農家の小窓の中へ飛びこんでしまった。武士は小窓の下へ往って立った。
 と、其の時家の中で人声がした。
「どうしたの、お婆さん、お婆さん、そんなにうなされて、お婆さん」
 すると赭がれた女の声がそれに応じた。
「あァ、怖かった、怖かった。わしは、この煩いでは、とても助からん思って、今、娘の処へ暇乞いに往って、帰っておると、お武家さんが見つけて、斬りに来たから、一所懸命になって逃げて来た。あァ、怖かった」



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