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火傷した神様
やけどしたかみさま
作品ID42282
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「怪奇・伝奇時代小説選集3 新怪談集」 春陽文庫、春陽堂書店
1999(平成11)年12月20日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-10-15 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

       一

 天津神国津神、山之神海之神、木之神草之神、ありとあらゆる神がみが、人間の間に姿を見せていたころのことであった。
 その時伊豆国に、土地の人から来宮様と崇められている神様があった。
 伝説にもその神様がどんな風采をしていたと云うことがないから、それははっきり判らないが、ひどく酒が好きであったと云うところからおして、体が大きくてでっぷりと肥り、顔は顔で赧く、それで頬の肉がたるみ、そして、二つの眼は如何にも柔和で、すこしの濁気のない無邪気な光を湛えていたように思われる。
 その来宮様は、某日例によってしたたか酒を飲んで帰って来た。その時は師走の寒い日であったが、酒で体が温まってほかほかしているので、寒さなどは覚えなかった。
「ああ佳い気もちだ、人間どもは、逢う者も逢う者も、首をすくめ、水洟をたらして、不景気な顔をしているが、ぜんたい、どうしたと云うのだ」
 来宮様の眼には、路傍の枯草がみずみずした緑草に見え、黄いろになった木の葉の落ちつくした裸樹が花の咲いた木に見えていたのであろう。
「こんな、佳い日に、人間どもは、何をあくせくしているのだ」
 来宮様はそうそうろうろうとして歩いた。それを見て土地の者は土地の者で、
「今日も来宮様は佳い気もちになって、歩いてらっしゃるが、此の寒いのに、あんな容をして、寒いことはないだろうか」
 と云う者もあれば、
「そこが酒だよ、酒をめしあがりゃ、寒いも暑いもないさ。酒は天の美禄だと云うじゃねえか」
 と云うようなことを云って笑う者もあった。さて来宮様は、土地の人間どもの寒そうな顔をして、あくせくしているのを憐みながら己の住居の近くへ帰って来た。其処は森の中で、入口には古ぼけた木の華表があった。来宮様はその時ひどく眠くなっていた。
「ああ、眠い、眠い、眠くてしかたがないぞ」
 夢心地になって華表の下まで来たところで、もう一歩も歩かれなくなったので、そのまま其処へころりと寝てしまった。
 ちょうどその時、二人の旅人が華表の近くへ来て休んでいたが、あまり寒いので、一方の旅人が、
「どうだ、火を焼こうか」
 と云うと、一方の旅人も、
「いいだろう」
 と云って、さっそく二人で枯枝を集め、腰の燧石で火を出して、それを枯枝に移して暖まりながら話しこんでいるうちに、強い風が吹いて来た。旅人はあわてて、
「こりゃ、いかん」
「燃えひろがっては、たいへんだ」
 と云って、二人で火を踏み消そうとしたが、火は消えないでみるみる傍の枯草に燃え移り、それから立木に燃え移った。旅人はますますあわてて、木の枝を折って来て叩き消そうとしたが、火はますます燃えひろがるばかりで、手のつけようがなかった。
「こりゃ、いかん、村の者に見つかったら、たいへんだ」
「そうだ、たいへんだ、逃げよう」
 二人はしかたなしに逃げて往った。その時来宮様に使わ…

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