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怪奇人造島
かいきじんぞうとう
作品ID42294
著者寺島 柾史
文字遣い新字新仮名
底本 「少年小説大系 第8巻 空想科学小説集」 三一書房
1986(昭和61)年10月31日
初出「日本少年 付録」1937(昭和12)年8月号
入力者阿部良子
校正者小林繁雄
公開 / 更新2006-09-06 / 2014-09-18
長さの目安約 89 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   一 怪汽船と怪老人

     どろぼう船

 冷凍船虎丸には、僕(山路健二)のほかに、もう一人ボーイがいた。それは、南京生れの陳秀峰と、自ら名乗る紅顔の美少年だ。
 ピコル船長附のボーイだから、僕のような、雑役夫にひとしいボーイと、めったに話合う機会もなかったが、船が函館港を出帆し、北上してから三昼夜目、すでに北千島圏内に入ったある日、後甲板で、二人は、ひょっこり出会った。すると、陳君は、流暢な日本語で、僕にそっと話かけた。
「カナダのH・G汽船会社の所属船が、どうして、僕等のような東洋人を雇うのか、君は、知っているかい」
 まるで、少女のように優しい声だ。僕は、何となく親しみを覚えて、
「それは、東洋人は、安い給金で雇えるからだろう」
「うん、それもある。だが、もっと他にも理由があるよ。だいち、この船は、どろぼう船だってことを、君は、知ってやしまい」
「え! どろぼう船?」
「叱ッ!……この船はね、表面は、カナダから日本の北千島へ、紅鮭を買いにいく冷凍船とみせかけているが、じつは、千島の無人島で、ラッコやオットセイを密猟する、国際的どろぼう船なのさ」
「へえ。じゃ、僕等も、どろぼうの手下にされたのかい」
「まアそうだ。しかも、さんざ、コキ使ったあとで、密猟が終り、満船して本国へ帰る途中、臨時に雇った水夫や、君たちのようなボーイを海ン中へ放り込んでしまうに都合がいいからだよ。つまり、東洋人を人間扱いにしていないのだ」
「どうして、海ン中へ放り込むのさ」
「この船の船員は、みんなピコル船長の乾児だろう。だから安心だが、臨時に雇った水夫やボーイたちは、上陸すると、この船の悪事を、みんな洩してしまう。それが怖ろしいので、毎年横浜や函館で、東洋人の水夫や、ボーイを雇って、北洋へ連れて往き、うんとコキ使って、不用になると、帰航の途中、海ン中へ放り込んでしまうのだ」
 僕はこれをきくと、おもわず、義憤の血の湧き立つのを覚えた。
「ひどいことをするなア。こんな船に、一刻も乗ってられやしない。途中で、脱船しなくちゃ……」
「そうだよ。僕は、毎日そのことを考えているのさ」
「だって君は、船長に可愛がられているから、海ン中へ放り込まれる心配は無いじゃないか」
「いや、僕も東洋人だ。同じ東洋人のために、兇暴な白人と戦わねばならない」
 陳君は、昂然と肩を聳かした。
 それにしても、どうして、この怖ろしい密猟船を脱することが出来ようか。

     脱船か奪船か

 虎丸は、案の定、北千島の無人島オンネコタン島近海で、白昼公然とラッコやオットセイを密猟した。それから、日本の極北パラムシロ島近海へ往って、何食わぬ顔で、日本の漁船から、紅鮭をうんと買込んで、ラッコやオットセイといっしょに、冷凍室に詰込んでしまった。
 それは、日本の監視船や、警備艦の眼を、巧みに脱れるためだった…

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