えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

或る画家の祝宴
あるがかのしゅくえん
作品ID4230
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十八巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日
初出「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社、1981(昭和56)年5月30日
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2004-05-17 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より




 何心なく場内を眺めているうちに、不思議なことに注意をひかれた。その夜は、明治、大正、昭和と経て還暦になった或る洋画家のために開かれた祝賀の会なのであった。この燈火の煌いた華やかな宴席には、もう何年も前に名をきき知っているばかりでなく、幾つかの絵を展覧会場で見ていて、自分なりに其々にうけ入れているような大家たちも席をつらねている。
 司会者の何か特別な意図がふくまれていたのであろうか、
 祝宴の主人公であるその画家の坐っている中央のテーブルは、純然の家族席としてまとめられている。夫人、成人して若い妻となっている令嬢、その良人その他幼い洋服姿の男の子、或は先夫人かと思われるような婦人まで、正座の画家をめぐって花で飾られたテーブルのまわりをきっしりととりかこんでいるのである。
 一応は和気藹々たるその光景は、主人公がほかならぬ画家であるということから、むしろ異様に孤独に、鬼気さえもはらんで忘れがたい感銘を与えられた。
 芸術の道をゆくとき、画家にとって道づれは、今こうやってテーブルに何か雑然と無意味な賑やかさでついている大小さまざまの家族たちであろうか。それとも友達、同時代人、或は先輩後輩であろうか。
 かりに、自分が当夜の主人公であり、画業何十年かの果にこういう席のわり当ての還暦の祝を催されたとしたら、私は戦慄を禁じ得なかったろうと思う。
 芸術家は孤独をおそれない勇気を常にもたなければならない。けれども、おそるべき性質の孤独があるとをいうことをも知らなければならない。



えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko