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ラプンツェル
ラプンツェル
作品ID42309
原題Rapunzel
著者グリム ヴィルヘルム・カール / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール
翻訳者中島 孤島
文字遣い新字新仮名
底本 「グリム童話集」 冨山房
1938(昭和13)年12月12日
入力者大久保ゆう
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2005-04-06 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 むかしむかし夫婦者があって、永い間、小児が欲しい、欲しい、といい暮しておりましたが、やっとおかみさんの望みがかなって、神様が願いをきいてくださいました。この夫婦の家の後方には、小さな窓があって、その直ぐ向うに、美しい花や野菜を一面に作った、きれいな庭がみえるが、庭の周囲には高い塀が建廻されているばかりでなく、その持主は、恐ろしい力があって、世間から怖がられている一人の魔女でしたから、誰一人、中へはいろうという者はありませんでした。
 或る日のこと、おかみさんがこの窓の所へ立って、庭を眺めて居ると、ふと美しいラプンツェル((菜の一種、我邦の萵苣(チシャ)に当る。))の生え揃った苗床が眼につきました。おかみさんはあんな青々した、新しい菜を食べたら、どんなに旨いだろうと思うと、もうそれが食べたくって、食べたくって、たまらない程になりました。それからは、毎日毎日、菜の事ばかり考えていたが、いくら欲しがっても、迚も食べられないと思うと、それが元で、病気になって、日増に痩せて、青くなって行きます。これを見て、夫はびっくりして、尋ねました。
「お前は、まア、何うしたんだえ?」
「ああ!」とおかみさんが答えた。「家の後方の庭にラプンツェルが作ってあるのよ、あれを食べないと、あたし死んじまうわ!」
 男はおかみさんを可愛がって居たので、心の中で、
「妻を死なせるくらいなら、まア、どうなってもいいや、その菜を取って来てやろうよ。」
と思い、夜にまぎれて、塀を乗り越えて、魔法つかいの庭へ入り、大急ぎで、菜を一つかみ抜いて来て、おかみさんに渡すと、おかみさんはそれでサラダをこしらえて、旨そうに食べました。けれどもそのサラダの味が、どうしても忘れられない程、旨かったので、翌日になると、前よりも余計に食べたくなって、それを食べなくては、寝られないくらいでしたから、男は、もう一度、取りに行かなくてはならない事になりました。
 そこで又、日が暮れてから、取りに行きましたが、塀をおりて見ると、魔法つかいの女が、直ぐ目の前に立って居たので、男はぎょっとして、その場へ立ちすくんでしまいました。すると魔女が、恐ろしい目つきで、睨みつけながら、こう言いました。
「何だって、お前は塀を乗越えて来て、盗賊のように、私のラプンツェルを取って行くのだ? そんなことをすれば、善いことは無いぞ。」
「ああ! どうぞ勘弁して下さい!」と男が答えた。「好き好んで致した訳ではございません。全くせっぱつまって余儀なく致しましたのです。妻が窓から、あなた様のラプンツェルをのぞきまして、食べたい、食べたいと思いつめて、死ぬくらいになりましたのです。」
 それを聞くと、魔女はいくらか機嫌をなおして、こう言いました。
「お前の言うのが本当なら、ここにあるラプンツェルを、お前のほしいだけ、持たしてあげるよ。だが、それには、お前…

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