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人蔘の精
にんじんのせい
作品ID42329
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「日本怪談全集 Ⅱ」 桃源社
1974(昭和49)年7月5日
入力者Hiroshi_O
校正者大野裕
公開 / 更新2012-11-25 / 2014-09-16
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 これは人蔘で有名な朝鮮の話であります。其の朝鮮に張と云う人がありました。其の張は山の中や野の中を歩いて人蔘を掘るのが稼業でありました。ぜんたい人蔘というものは、山の中や野の中に自然に生えて、二十年も三十年も経った古いものでなくては体に利き目がありません。又そんなよい人蔘になりますと一本で何十円何百円にもなります。
 張もそうした人蔘を捜して歩く者でありました。某日張は、其の人蔘を尋ねて深い山の中へ入って往きました。そして朝から晩まで彼方此方と尋ねましたが、そんなよい人蔘が直ぐ見つかるものではありません。そんなことは張も承知でありますから、陽が暮れかかると腰につけていた辨当をたべて、不意に雨が降って来てもかまわないような岩陰を見つけてそこへ寝てしまいました。
 其の晩は明るい月がありました。張は手足を伸び伸びさしてぐっすり寝込んでおりましたが、夢心地に何者かが来て己の体を高いところへかろがろとあげたように思いましたので、びっくりして眼を開けて見ますと、己は大きな大きな怪物の毛むくじゃらの両手に嬰児のように乗せられております。張は胆をつぶしておどろきましたが、じたばたして撮み殺されてはならんと思いましたから、すなおにしてじっと見ました。背の高さは二丈あまりもありましょう、体一ぱいに赤い毛が生えて人とも虎とも判らない顔をしておりましたが、其の両眼は黄金の色をして光っておりました。張はとても急に逃げようとしても逃げられないから、其のうちに隙を見つけて逃げようと思いました。
 張はしかたなしにじっとしておりました。怪物は片手をはずして、其の手で張の頭から体を撫でさすりながら歩きだしました。地べたの上に置いてくれるなら隙をこしらえて逃げ出すのに、持って往かれては其の隙がありません。其のうちに怪物の巣へ伴れて往かれて頭から啖われるに違いないと思いました。そう思うと恐ろしくて生きた心地が致しません。どうかして逃げ出す工風はないかと思っていましたが、とてもそんな隙はありませんでした。張には年老ったお父さんが一人あってそれを養うておりました。己がもし此の怪物に啖われてしまったなら、お父さんがどんなに困るだろうと思いました。張は己の命よりもお父さんのことが気になって、お父さんのために生きておりたかったのです。
 怪物は人間が犬の子でも可愛がるように、やっぱり撫でたりさすったりしておりました。大きな岩石の聳えた谷の間を通ったり、林の中を抜けたりして大きな洞穴のある処へ往きました。洞穴の口には月の光が射しておりました。怪物は其の中へ入って大きな石が寝台のようになっておるところへ往って其の上に張をおろしました。張は怖る怖る眼を開けて穴の中を見ました。傍にたくさんの獣の骨や頭の類がころがっていて、其処から生臭い鬼魅悪い臭がして来ます。張はそれを見ますと、己も今にあんなにして啖われるのだ…

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