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|  政治家と家庭 せいじかとかてい | |
| 作品ID | 42368 | 
|---|---|
| 著者 | 太宰 治 Ⓦ | 
| 文字遣い | 新字新仮名 | 
| 底本 | 「もの思う葦」 新潮文庫、新潮社 1980(昭和55)年9月25日 | 
| 入力者 | 蒋龍 | 
| 校正者 | 土屋隆 | 
| 公開 / 更新 | 2009-04-10 / 2014-09-21 | 
| 長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) | 
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 頭の禿げた善良そうな記者君が何度も来て、書け書け、と頭の汗を拭きながらおっしゃるので、書きます。
 佐倉宗五郎子別れの場、という芝居があります。ととさまえのう、と泣いて慕う子を振り切って、宗五郎は吹雪の中へ走って消えます。あれを、どうお思いでしょうか。アメリカ人が見たら、あれをどう感ずるでしょうか。ロシヤ人が見たら、何と判断するでしょうか。
 しかし私たち日本人、殊に男が何か仕事に打ち込んだ場合、たいていこの宗五郎のようになってしまいます。
 家族は、捨ててよいものでしょうか。日本の政治家たちは、たいてい家庭を捨てているようです。ひどいのになると、独身だか妻帯者だか、わからない人物もあります。しつけの良い家庭を営んでいる政治家は、少いように思われます。
 しつけのよい家庭を維持しながら、よい仕事も出来るという政治家もあってよいと思います。これこそ、至難の事業であります。けれども、兄は、それが出来るかも知れない極めて少数のひとの一人だと思います。
 無理なお願いでしょうけれどもお願いしてみます。私の為のお願いではありません。