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お山の爺さん
おやまのじいさん
作品ID42628
著者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話集」 海鳥社
1990(平成2)年11月27日
初出「金の星」1923(大正12)年1月
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-07-27 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



おうさむこさむ
やまからこぞうがないてきた
なーんとてないてきた
さむいとてないてきた。

 こういう歌を皆さんはご存じでしょう。この歌が流行り始めた頃には、おもしろい話がそれについていたものです。この歌をうたって山の近くでたき火をしていると、一寸法師の子僧が火にあたりに山から飛んでくる、というのです。
 ある片田舎の、山の裾にある小さな村に、右のことがどこからか伝わってきた時、子供達は眼をまんまるくしました。考えれば考えるほど、おもしろくておかしくてしようがありませんでした。しまいには皆で集まって、山の小僧を呼んでみようということになりました。
 村から少し離れた山のふもとに、松や柏やくぬぎや椎などの雑木林がありました。秋のことで、枯枝や落葉などがたくさん積もっていました。村の子供達はそこへ行って、林のふちの野原にたき火をしました。煙の下からぼうと火が燃え出してくると、皆は手をつないで、ぐるぐる火のまわりを廻りながら、大きい声で歌を歌いました。

おうさむこさむ
やまからこぞうがないてきた
なーんとてないてきた
さむいとてないてきた。

 歌っているうちにますますおもしろくなって、しまいに皆は踊り始めました。
 ところが、やがてたき火の火が燃えきってゆき、皆は歌うのに声が疲れ、踊るのに身体が疲れてきても、一寸法師の子僧は出て来ませんでした。皆は歌も踊りもやめて、燃え残りの火を見たり、山の方を眺めたりしながら、がっかりしてしまいました。
 けれど、一度では諦められませんでした。子供達はそれから毎日のように雑木林の所へきて、たき火をし、歌をうたい、踊り廻って遊びました。今にきっと何か出て来るような気がしてきました。それにまた、その遊びはどの遊びよりもおもしろうございました。



 ある日もまた、皆でその遊びに夢中になっていますと、山の方からさっと風が吹いてきて、青い空にゆるく立ち昇っていたたき火の煙が、ゆらゆらと乱れかけるとたんに、高い所で、アハハハ……と大きな笑い声がしました。子供達はびっくりして、歌も踊りも止めて見上げますと、髪の毛のまっ白な白髭の大きなお爺さんが、煙の中にぼんやり浮き出して、にこにこ笑っています。おや! と思うまに、お爺さんの姿はすーっと消えてしまいました。
 皆は夢でもみたような気がしました。けれども、とにかくお爺さんの姿が煙の中に実際見えたのです。一寸法師の子僧ではなくて人の何倍もある大きな白髪白髭のお爺さんでしたけれど、ちっとも恐くないやさしい顔つきで笑っていたのです。
 子供達はそれに元気づきました。そしてやはり毎日のようにそこへ来て、たき火をして遊びました。すると、必ず一度は煙の中に、お爺さんの笑い声が聞こえて姿が見えました。けれどそれはいつも、ほんのちょっとの間だけでした。
「あのお爺さんを煙の中から呼び出して、一緒…

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