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金の目銀の目
きんのめぎんのめ |
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作品ID | 42631 |
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著者 | 豊島 与志雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「豊島与志雄童話集」 海鳥社 1990(平成2)年11月27日 |
初出 | 「主婦之友」1936(昭和11)年1月ー7月 |
入力者 | kompass |
校正者 | 小林繁雄、門田裕志 |
公開 / 更新 | 2006-07-18 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 70 ページ(500字/頁で計算) |
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まっ白いネコ
九州の北海岸の、ある淋しい村に、古い小さな神社がありました。その神社のそばのあばら屋に、おじいさんとおばあさんとが住んでいました。おじいさんは、神社の神主で、ふだんは、近くの人達のためにお祈りをしてやったり、子供達にお習字のけいこをしてやったりしていました。えらい学者だとの噂でした。
この老人夫婦といっしょに、十二―三歳の男の子がいました。老人達の孫にあたる子供で、早くからふた親に死なれ、ほかに身寄りもないので、ひきとられて育てられてるのでした。上野太郎という名前で、頭が大きく、生まれつき大変りこうで、その上、おじいさんからいろんなことを教わって、深い、広い知恵を持っていました。
おじいさんとおばあさんと孫と三人は、貧乏ではありましたが、楽しく、暮らしておりました。
ところが、冬の寒い日、おばあさんは病気になって、亡くなりました。
悲しみのうちに、お弔いもすみました。
それから毎日、五十日のあいだ、太郎は、おばあさんの墓におまいりしました。雨が降っても雪が降っても、欠かしませんでした。
五十日目の日は、珍しい大雪でした。二、三日前から降り続いていたのが、夜になって急にひどくなり、朝起きてみると、野も山も見渡す限り、一面にまっ白でした。
「あの通りの大雪だから今日は止めたらどうだい」と、おじいさんは言いました。
「いいえ、今日でお終いだから、行ってきます。だいじょうぶです」と、太郎は答えました。
足には、ももひきの上に、きゃはんをつけ、たびを何枚もかさね、ぞうりをはき、手に毛糸の手袋をはめ、大きな頭には、おじいさんの大きな大黒帽をかぶり、そして古いマントにくるまって、まるで人形のようにまんまるくなって、太郎は出かけました。
雪はもう降り止んで、うすく日の光が差していました。どちらを見ても、どこを見ても、まばゆいほど、まっ白に光ってる世界です。誰も通る人もなく、犬の姿も見えず、小鳥の声も聞こえず、ただまっ白で、静かです。太郎は飛ぶようにすすんでいきました。
街道からそれて、せまい坂道をしばらくのぼり、向こうの小高い丘の上、そこにおばあさんの墓がありました。
太郎は墓の前の雪を払いのけ、青柴の枝を折ってきて供え、そして祈りました。
「おばあさん、もう五十日たちました。安らかに眠ってください。おばあさんがいなくて、ぼくはさびしいけれど……けれど……しっかり生きていきましょう」
何度もおじぎして、そして帰りかけました。
手足が冷たくかじかんで、身体がこわばってくるようでした。でも、元気を出して、息をふうふうはきながら、雪を蹴散らして歩きました。
墓地を出て、丘を下りかけ、大きな杉の木が一本立ってる曲り角まで来ましたときに、ばったり前に倒れました。
太郎は自分でもびっくりして、頭をあげて見まわしました。そして、…