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手品師
てじなし
作品ID42636
著者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話集」 海鳥社
1990(平成2)年11月27日
初出「赤い鳥」1923(大正12)年5月
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-07-18 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

      一

 昔ペルシャの国に、ハムーチャという手品師がいました。妻も子もない一人者で、村や町をめぐり歩いて、広場に毛布を敷き、その上でいろんな手品を使い、いくらかのお金をもらって、その日その日を暮らしていました。赤と白とのだんだらの服をつけ三角の帽子をかぶって、十二本のナイフを両手で使い分けたり、逆立ちして両足で金の毬を手玉に取ったり、鼻の上に長い棒を立ててその上で皿廻しをしたり、飛び上がりながらくるくるととんぼ返りをしたり、その他いろいろなおもしろい芸をしましたので、あたりに立ち並んでる見物人から、たくさんのお金が毛布の上に投げられました。けれどもハムーチャは、そのお金で酒ばかり飲んでいましたので、いつもひどく貧乏でした。「ああああ、いつになったら、お金がたまることだろう」と嘆息しながらも、ありったけのお金を酒の代にしてしまいました。雨が降って手品が出来ないと、水ばかり飲んでいました。そしてだんだん世の中がつまらなくなりました。
 ある日の夕方、ハムーチャは長い街道を歩き疲れて、ぼんやり道ばたに屈み込みました。すると、遠くから来たらしい一人の旅人が通りかかりました。旅人はハムーチャのようすをじろじろ見ていましたが、ふいに立ち止まってたずねました。
「お前さんは奇妙な服装をしているが、一体何をする人かね」
「私ですか」とハムーチャは答えました。「私は手品師ですよ」
「ほほう、どんな手品を使うか一つ見せてもらいたいものだね」
 そこでハムーチャは、いくらかの金をもらって、早速得意な手品を使ってみせました。
「なるほど」と旅人は言いました、「お前さんはなかなか器用だ。だが私は、お前さんよりもっと不思議な手品を使う人の話を聞いたことがある。世界にただ一人きりという世にも不思議な手品師だ」
「へえー、どんな手品師ですか」
 そこで旅人は、その人のことを話してきかせました。――それは手品師というよりもむしろ立派な坊さんで、善の火の神オルムーズドに仕えてるマージでした。長い間の修行をして、ついに火の神オルムーズドから、どんな物でも煙にしてしまう術を授かりました。何でも北の方の山奥に住んでいて、そこへ行くには、闇の森や火の砂漠や、いろんな怪物が住んでる洞穴など、恐ろしいところを通らなければならないそうです。そのマージの不思議な術を見ようと思って、幾人もの人が出かけましたが、一人として向こうに行きついた者はないそうです。
「本当ですか」とハムーチャはたずねました。
「本当だとも、私は確かな人から聞いたのだ」と旅人は言いました。
「だがお前さんには、とてもそのマージの所まで行けやしない。それよりか、自分の手品の術をせいぜいみがきなさるがよい」
 そして旅人は行ってしまいました。
 ハムーチャは後に一人残って、じっと考え込みました。――こんな手品なんか使っていたって 一…

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