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天狗の鼻
てんぐのはな
作品ID42638
著者豊島 与志雄
文字遣い新字新仮名
底本 「豊島与志雄童話集」 海鳥社
1990(平成2)年11月27日
入力者kompass
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2006-07-18 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

      一

 むかし、ある所に大きな村がありました。北に高い山がそびえ、南に肥沃な平野がひかえ、一年中暖かく日が当って、五穀がよく実り、どの家も富み栄えて、人々は平和に楽しく暮らしていました。
 ところがこの村に、不思議なことが起こってきました。夕方たんぼから帰ってきて、いろんなごちそうをこしらえて、一家揃って楽しい食事をしようとしますと、どこからかふいにひどい風が吹いて来て、ランプやろうそくの火を消してしまいます。急に家の中がまっ暗になったのに、皆びっくりして、大騒ぎをしてからあかりをつけますと、まあどうでしょう、今までお膳の上に並んでいたごちそうが、一つ残らずなくなってるではありませんか。――そういうことが、毎晩どの家かに必ず起こってくるのです。
 村の人達は大変困りました。その頃はまだ、電気灯やガス灯はなくて、ランプやろうそくをつけていましたから、どんなにしても、ふいに吹いてくる風のために消されてしまいました。雨戸をすっかり閉めきっても、どこからかその風が吹いてくるので、どうにも仕方がありませんでした。しまいには、あかりが消えたらすぐにまたつける用意をしておきましたが、そのちょっと暗くなった間に、大事なごちそうはすっかりなくなってしまいました。それかと言って、大変勤勉な村人達でしたから、まだ明るいうちに仕事をやめて夕飯をたべる気にもなれませんでした。
 そしてなお不思議なことには、村で一番立派なごちそうをこしらえてる家に、そういうことが起こるのでした。うっかりごちそうもこしらえられませんでした。
 一体何者がごちそうをさらってゆくんだろう? と村の人達は考えてみました。けれど、いくら考えてもわかりませんでした。何しろ姿も見えなければ音もしないんですもの、ただ不思議な怪物というより外、とうていわかりっこはありません。それでも村の人達は一生懸命になって、その正体を見届けようとしました。
 するうちに、少しずついろんなことがわかってきました。大きな羽うちわを見たという者が出てきました。赤い高い鼻を見たという者が出てきました。緋の衣を見たという者が出てきました。何か人間の形をした大きなものが暗い空をふわりふわり飛んでいた、という者が出てきました。
「天狗だ!」と誰かが言い出しました。
 なるほど、いろんなことを考え合わせると天狗に違いありません。きっと貪欲な天狗がやって来て、羽うちわであかりをあおぎ消して、人のこしらえたごちそうをさらって行ってるに違いありません。村の人達は天狗だときめてしまいました。
 ところで、いくら天狗だからといって、そのまま放っておくわけにはゆきません。村の人達はいろいろ相談して、その天狗を捕まえようとしました。
 が、なかなかそうはまいりませんでした。戸の隙間からでもはいり込んできて、音も立てずにごちそうをさらってゆくほどの天狗…

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